| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-03  (Oral presentation)

擬態か隠蔽か: アリ類寄生者における化学戦略の理論的研究

*里居伸祐, 巌佐庸(九州大学)

 擬態は捕食の回避や効率よい捕食のために、生物界に広く見られる戦略である。嗅覚の世界で生きている生物には嗅覚の擬態が存在し、これを化学擬態と呼ぶ。化学擬態する代表的な生物として、アリ等の社会性昆虫を宿主とする寄生者がいる。アリはコロニーの仲間を体表の化学物質で認識するため、それを似せることで仲間と誤認させて巣に侵入することができる。アリ類寄生者における化学擬態には、宿主の形質を真似る戦略(mimic)の他に、化学物質量を薄くする戦略(cryptic)が観察されている。このcryptic戦略とmimic戦略がそれぞれどのような状況で進化するのかはわかっていない。本研究ではどのような状況で2つの擬態戦略が進化してくるのかを解明するために理論研究を行った。
 宿主も寄生者も、(x1, x2)のような二次元の匂い形質を持っていると仮定する。観察事実に基づき、2つの匂い形質のブレンドの比が近く自分より匂いが薄ければ受け入れ、そうでない場合は拒否とする関数を用いてアリの認識を表現した。さらに寄生者は同種との競争にさらされており、同種の他コロニーの個体を認識、排除する必要があると仮定した。化学形質が近いほど誤認する確率が高まるため、寄生者たちがcryptic戦略をとると形質が似通うことによってmimic戦略よりも激しい競争にさらされることになる。上記のような仮定のもと、宿主に受け入れられれば利益、別コロニーを拒否出来なければ損失として寄生者の適応度を定義し、進化シミュレーションを行った。その結果、種内競争の程度が小さいとcryptic戦略が進化し、大きいとmimic戦略が進化する事がわかった。また、宿主の認識が厳しくないとき、両戦略が共存できることが示された。上記の結果をふまえ、現実のアリ類の化学戦略に対して議論する。


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