| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-06  (Oral presentation)

捕食者の記憶をもつハダニの、捕食者非存在下における防衛戦略

*村瀬葵(京都大学大学院農学研究科生態情報開発学)

自然界は動物にとって、脅威や変化にあふれている。動物における学習とは経験に基づいて行動を変えることで、繰り返される脅威や刺激に適切に対処するためには欠かせない。例えば、遭遇経験のある天敵に再び出会ったとき敏感に反応できると、被食回避の確実性が増す。こうした被食回避の学習は、幅広い動物種で観察されてきた。自然界においては、天敵を経験した動物が捕食者といつ再遭遇するか予測ができないため、天敵不在下でも将来のリスクに備えた予防的行動をとるべきかもしれない。さらに、その予防的行動をとる間にも動物の周囲の状況は変化するため、予防的行動自体が現状に合わせて可塑的に変更されるのではないかと予測した。
餌植物葉に張った網の中で暮らすカンザワハダニ(植食性節足動物)は、通常は葉面に産卵するが、天敵のカブリダニが網に侵入すると被食されにくい網上に産卵することが知られる。そこで、天敵との遭遇経験に基づくカンザワの産卵行動の変化を検証した結果、(1)天敵を経験したカンザワは、天敵不在下でも数日間網の上に産卵し続けること、(2)この予防的行動は仲間が周囲に存在する場合に緩和されること、(3)カンザワと比べて天敵に出会う頻度が低い環境で暮らす近縁種のナミハダニでは経験による行動の変化が弱いことが明らかになった。
本研究は、高等な神経系をもたない動物の学習による予防的行動が、現状に合わせて可塑的に変更されることを初めて示した。また、生息環境における学習の必要性が、学習の発達を左右することも示唆された。以上の成果は、動物の学習とその進化の研究に新たな視点を提供するだろう。


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