| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-04  (Oral presentation)

ミジンコDaphnia pulexにおけるKr-h1遺伝子の発現および機能解析

*宮川一志(宇都宮大学), 渡邉みなえ(宇都宮大学), 井口泰泉(横浜市立大学)

 幼若ホルモン(JH)は、様々な節足動物において変態や生殖を制御するホルモンである。昆虫では、JHを受容体Metが受容すると下流のKr-h1の転写活性化を介して最終的な生理機能の発現に至る。しかし甲殻類であるミジンコの場合、JHをMetが受容する点では昆虫と同様だが、下流のシグナル伝達経路はほとんど明らかになっていない。環境依存型性決定や誘導防御など、JHに制御された複雑なシステムを駆使して繁栄するミジンコにおいてJHのシグナル伝達経路を理解することは、多様な節足動物の進化過程にJHが果たしてきた役割を理解する上で重要である。
 本研究では、ミジンコDaphnia pulexにおいてJH経路の分子機構を解明すべく、昆虫におけるJH応答因子の筆頭であるKr-h1の関与の有無を解析した。遺伝子発現解析の結果、ミジンコにおいてJHの曝露に応じたKr-h1の発現上昇は観察されなかった。さらにRNAi法でMetおよびKr-h1の機能を阻害したところ、Kr-h1阻害個体はMet阻害個体よりも発生のより初期に致死となった。これらより、発生初期においてKr-h1は重要な役割を果たすが、その機能はJHやMetを介さずに発揮されることが示唆された。続いて、ミジンコのKr-h1がMetによって転写制御されているかを分子レベルでより詳細に調べるために、Kr-h1の制御領域を使用したレポーターアッセイ系を構築した。その結果、上記の機能阻害実験と同様に、ミジンコのMetはKr-h1の制御領域と作用しないことが示唆された。一方で、レポーターとして昆虫のKr-h1の制御領域を使用した際にはミジンコのMetによる転写活性化が観察された。Kr-h1は元々はJHと無関係な機能を持つ遺伝子として生じ、後にその制御領域にMetに応答する配列を獲得することで昆虫特異的にJH経路の主要因子となった可能性が考えられる。


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