| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-01  (Oral presentation)

Macaranga bancana(トウダイグサ科)における不規則な開花とその要因

*山崎絵理(チューリッヒ大学), Briskine, Roman(チューリッヒ大学), 久米朋宜(国立台湾大学), 永井信(JAMSTEC), Diway, Bibian(Sarawak Forestry Corporation), 清水健太郎(チューリッヒ大学)

顕花植物にとって、開花のタイミングは効率の良い送粉や外交配を行う上で極めて重要である。温帯では多くの植物が明確な年変動がみられる気温や日長に反応して花を咲かせる。一方、気温や日長、降水量にあまり季節性が見られない東南アジアの熱帯林で植物がどのような環境要因で花を咲かせるのかということは大きな謎である。これまで多くの研究者が「一斉開花」とよばれる数年に一度様々な分類群の植物が同調して開花する現象に注目しており、不規則に起こる乾燥や気温低下が開花の要因として重要だと示唆されてきた。しかし、東南アジアの植物の中には一斉開花以外のタイミングで花を咲かせるものも多い。この研究では、ボルネオ島ランビル国立公園のMacaranga bancana(トウダイグサ科)に着目して、どのような環境要因が開花と関わっているかを開花フェノロジーの観察と開花関連遺伝子の発現モニタリングから調べた。
2014年7月から週に1度のフェノロジー観察を継続して行ったところ、2016年3月までに4回の開花ピークが見られた。降水量、気温、日射量と開花の関係を調べると、約1ヶ月間の降雨日数が少なくなると開花が起こりやすいことが示唆された。次に、フェノロジー観察と同じタイミングでサンプリングした芽または花序で発現している遺伝子の解析を行った。まずシロイヌナズナで調べられている161の開花関連遺伝子と相同な遺伝子の発現パターンを調べたところ、48遺伝子で開花のタイミングに合わせて発現が変化していた。これらの遺伝子の発現パターンの変化がどのような環境要因と関係しているか調べると、フェノロジー観察データと同じように、約1ヶ月間の降雨日数と負の関係があるものが多かった。これまでの研究から、一斉開花でも約30日間の雨量の低下が重要な指標となっている。M. bancanaでは一斉開花よりも緩やかな乾燥条件に反応して開花が起こっているのだろう。


日本生態学会