| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-05  (Oral presentation)

土砂バイパストンネルを用いた人為的な土砂供給に対する底生動物の応答事例

*末吉正尚, 小野田幸生, 宮川幸雄, 堀田大貴, 萱場祐一(土木研究所)

ダム湖への土砂堆積とダム下流における小粒径の土砂不足が国内外の河川で顕在化しており、ダム下流では河床環境に依存する底生動物群集の変化が報告されている。この土砂不足を解消するための方法として、ダム上流と下流をつなぐバイパストンネル(BT)が検討され始めている。本研究では、2016年から天竜川水系小渋ダムにおいて運用が開始された土砂BTによる下流への土砂供給が、河床環境と底生動物に及ぼす短期的な効果を検証した。2016年9月に発生した出水に合わせて、ダム上流から下流に土砂を含んだ濁水が通水された。調査は、小渋ダム上流(1地点)と下流(3地点)に加えて、リファレンスとしてダムがない遠山川(3地点)の計7地点で、運用前の2016年6・9月と運用後の10月の3時期に行った。各地点の瀬でコドラート(50×50cm)を3つ設置し、河床の粒径別土砂被覆度を計測したのち、底生動物を採取して分類群数・個体数を計測した。注目する小粒径の土砂(砂:<2mm、砂利:2-16mm)の被覆度及び分類群数を対象に、調査時期と地点区分を説明変数にして、多重比較による検定を行った結果、砂は時期・区分ともに違いはなく、砂利は運用前後とダム下流-リファレンス間で差が見られた(P<0.05)。同様に、分類群数はダム下流において9月から10月にかけて減少が確認された。また、砂利と分類群数との関係性を一般化線形混合モデルで検証した結果、被覆度が10%を超えた辺りから分類群数が低下する凸型の関係性が示された。ダム下流の砂利被覆度は9月(平均4%)から10月(平均16%)にかけて増えており、この値はリファレンスやダム上流の砂利被覆度(平均13-21%)に近く、減少した分類群数も上流・リファレンスと近い値を示した。以上から、運用直後のダム下流は上流やリファレンスに近い河床環境、分類群数に近づいたと考えられた。


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