| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) J02-03  (Oral presentation)

湖沼生態系のレジームシフトにおける環境保全型農業の役割:滋賀県西の湖における学際的モデル分析

*田中勝也(滋賀大学), 川口智哉(株式会社日水コン), 木村誠(株式会社日水コン), 永松由有(株式会社日水コン)

本研究の目的は、環境保全型農業の普及にむけた農業環境政策(環境直接支払制度)が、湖沼のレジームシフトを通じて水棲生態系を回復させる可能性を評価することである。この目的のため、本研究では農業経済学、水文学、水理学、生態学の知見を組み合わせた、陸水域統合型の農業環境政策評価モデルを開発した。このモデルにより、環境直接支払制度を普及させるための政策コストと、政策による保全型農業の普及および流出栄養塩の減少が、レジームシフトを通じて水棲生態系を改善する可能性について、単一のフレームワークで評価することが可能となる。

本研究では、上記の農業環境政策評価モデルを、琵琶湖最大の内湖である西の湖(滋賀県近江八幡市)に適用した。分析による主要な結果は以下の通りである。まず、環境保全型農業の普及による化学肥料の低減が、湖沼生態系のレジームシフトをもたらす可能性が明確に示された。ただし、その実現には環境保全型農業の取り組みが面的に広がることが重要である。西の湖流域の全農家が環境保全型農業を採択した場合(採択率100%)でも、レジームシフトまでには6年が必要であることが示された。必要な期間は、採択比率が下がるほどに長くなり、採択率が全農家の40%を下回ると、政策を長期間実施した場合でもレジームシフトによる生態系の回復は見込めない結果となった。

また、レジームシフトまでの必要期間と累積コストから、政策シナリオごとの費用対効果を推計した。その結果、レジームシフトまでの期間は長いものの、採択比率が流域全体の半分程度の場合、費用対効果がもっとも高い結果となった。


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