| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-A-013  (Poster presentation)

共生者分裂率をめぐる宿主と細胞内共生者の共進化

*内海邑, 佐々木顕, 大槻久(総合研究大学院大学 生命共生体進化学専攻)

 ミドリゾウリムシ–クロレラ共生系などでは宿主と共生者の細胞分裂が同調している。この分裂同調によって,共生者は過不足無く垂直伝播され宿主内で安定的に維持されている。一方,マラリアのように共生者が宿主細胞よりも速く増殖することで,大量の子孫を放出して効率的に水平伝播できる場合もある。それでは共生者が宿主よりも速く増殖できるにもかかわらず,宿主の遅い分裂と同調して垂直伝播を行うように進化することはあるのだろうか。
 そこで本研究では,共生者が宿主に合わせて分裂を「自粛」し,垂直伝播が進化する条件を理論的に調べた。モデルの仮定は次の通りである。1)共生者は自身の分裂率を,宿主は共生者を消化する速度を進化させる。2)共生状態の宿主は分裂の際に,細胞内の共生者を娘細胞へ分配する。3)宿主細胞内で共生者が分裂すると,共生者が宿主細胞内にたまり,その数が一定数を超えると宿主細胞が死亡する。
 このモデルを解析した結果,共生者の分裂自粛が進化するには,相利共生による利益(死亡率の低下とした)が共生者だけでなく,宿主にとっても十分大きい必要があった。また共進化の帰結として,共生者がオルガネラ的に振る舞う場合と共生者が病原体的に振る舞う場合があった。前者では,宿主が共生者の消化を抑えて共生者を維持するようになり,共生者も分裂自粛をする。また後者では共生者が限りなく速く分裂し,宿主も対抗して共生者を迅速に消化する。これらは双安定的で,どちらが実現するかは進化前の共生者分裂率・消化率や両者の進化速度に依存していた。
 ミドリゾウリムシの系では,共生可能なクロレラ系統は宿主に対する消化耐性を持つことが知られている。本研究でも,共生者が予め消化耐性を持つ場合には共生者がオルガネラ的に振る舞うように進化しやすく,実験的に知られている消化耐性が安定的な垂直伝播を進化させるための前提条件として重要であることを示唆している。


日本生態学会