| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-053  (Poster presentation)

環境DNA手法の感染症生態学への応用其の二;住血吸虫の検出

*渡辺真梨奈(神戸大学), オオタケサトウマルセロ(獨協医科大学), 桐木雅史(獨協医科大学), サトウ恵(新潟大学), 池田菫(新潟大学), 源利文(神戸大学)

住血吸虫症とは、アフリカを中心に世界78ヵ国で7億人が感染リスクに晒され、2億4800万人が感染し、年間20~28万人が亡くなっている寄生虫感染症である。病原体の住血吸虫Schistosomaは、中間宿主の淡水巻貝に寄生し成長すると水中に放出され、その水域にヒトを含む哺乳類が入り接触すると、皮膚から侵入し感染する。現在有効なワクチンがなく、予防のためには住血吸虫の生息地を把握し、感染水域に近づかないことが重要である。そこで、環境水から迅速で容易にDNA検出が可能である環境DNA分析手法を感染症疫学に応用することを試みた。
本研究では、ヒトに感染する住血吸虫のうち、アフリカで最も蔓延するマンソン住血吸虫、アジアで蔓延するメコン住血吸虫、かつて日本で蔓延した日本住血吸虫に対して、ミトコンドリアCOI領域を用いて特異的かつ短い増幅断片のプライマーの設計を行った。次に、マンソン住血吸虫について、感染した貝と未感染の貝が生息する水槽水サンプルでそれぞれPCRを行ったところ、感染した貝の水槽水でDNA検出に成功した。最後に、マンソン住血吸虫が蔓延するマダガスカルの環境水サンプルでPCRを行い、環境水からのDNA検出に世界で初めて成功した。
環境DNA分析手法による広域の迅速で簡易な調査、モニタリングは、感染症予防法として感染リスクマップの作製などに有用である。未だ課題もあり解明されていないことも多いが、大きな発展の余地がある環境DNA分析手法が、将来的には、医学、疫学、衛生教育などと並行して生態学的アプローチからヒトの感染症予防に寄与することを期待したい。


日本生態学会