| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-065  (Poster presentation)

落葉分解を担う菌類群集の構成要因を評価する

*笠原暢(横浜国立大学), 松岡俊将(兵庫県立大学), 藤井佐織(アムステルダム自由大学), 辰巳晋一(横浜国立大学), 大園享司(同志社大学), 森章(横浜国立大学)

生態系における生物多様性形成のメカニズムは、生態学研究の中心的なテーマであり、主に植物群集を対象として研究が行われてきた。一方で、菌類等の微生物の群集形成に関しては、不明な点が多い。菌類は様々な生態系機能を持ち、森林土壌において落葉等のリター分解を担う。リター分解菌の多様性や分布を形成する要因を理解することは、その群集構造を解明することに繋がる。本研究では、複数種の森林にて、2樹種の葉を用いたリターバッグ実験を行い、分解菌群集を構成する要因を評価することを目的とした。実験地は北海道、知床半島の天然林および人工林であるササ原、混交林、カラマツ林で、各場所で14年前より防鹿柵が設置されている。実験サンプルとしてミズナラとトドマツを選定し、2013年9月よりこれらを各実験地の防鹿柵内外に設置した。1年後に回収し、菌類のDNAデータの取得を行った。得られたデータを用いて、Variation partitioning により、全空間スケール、柵内外、植生タイプ別の3通りの方法で、菌類群集に対する地理的距離、宿主、環境要因による寄与率を調べた。結果、全空間スケール、柵内外のいずれも、菌類群集構造の決定に対し、宿主と環境が同等に影響を与えていた。植生タイプ別では、環境よりも宿主が群集構造の決定に大きな影響を与えていた。いずれのスケールでも、地理的距離による影響は見られなかった。これより、林分スケールでは、宿主リターの持つ特性が菌類群集の構造を決定しているが、空間スケールの拡大に伴い環境が多様化し、菌類群集も変化していくと考えられる。景観スケールでは、それぞれの環境に適応した菌類が共通して宿主に対する選好性を示していると考えられる。よって、リター分解菌の群集は、宿主や環境といった生物および非生物的な要因に影響を受け、空間スケールの変化に伴いそれらの影響力が変わることが示唆される。


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