| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-086  (Poster presentation)

サクユリとヤマユリの花形質と送粉昆虫

*中嶋玲菜, 加藤英寿, 村上哲明(首都大学東京 牧野標本館)

 伊豆諸島のみに自生するサクユリとその基準変種であるヤマユリ(本州自生)は、大きな白色の花被片をもち、甘い花香を放出する。サクユリには白い花被片に赤色斑紋のある個体とない個体が存在する一方、ヤマユリではすべて赤や茶色斑紋がある。白色の花被片や甘い花香といった特徴は、一般的に夜行性のガ類を誘引するのに適応した形質と言われている。伊豆諸島ではアゲハチョウ類が少なく、夜行性のガ類が重要な送粉昆虫の可能性があることから、花被片に斑紋ありとなしの個体が同所的に生育している島(伊豆大島)と斑紋なし個体のみが生育している島(青ヶ島)のサクユリ、ならびにヤマユリについて、斑紋の有無や花香強度、蜜分泌量、送粉昆虫相の日内変化等を調べ、それらの花形質と送粉昆虫の関係を明らかにすることを目的とした。
 臭気計による花香強度測定の結果、サクユリでは夕方と深夜の2回花香が強くなったのに対し、ヤマユリでは夜のはじめ頃のみ強くなった。蜜量と糖濃度から算出した蜜に含まれる糖量については、サクユリでは夕方に最も多くなったのに対して、ヤマユリでは日内で大きな変化はみられなかった。デジタルカメラを用いた送粉昆虫調査の結果、サクユリの斑紋の有無での差はみられなかったが、変種間および島間ではその種類に違いがみられた。体サイズや採蜜行動等を考慮すると、サクユリでは夕方~夜間のスズメガ類が送粉に最も寄与しているのに対して、ヤマユリでは昼間のアゲハチョウ類と夜間の大型スズメガ類の両方が送粉に寄与していると考えられた。以上のことから、ヤマユリは夜間に強く花香を放出して夜行性の大型スズメガ類を誘引するのに加えて、昼行性のアゲハチョウ類も誘引する。それに対し、アゲハチョウ類の少ない環境に生育するサクユリは、夕方~深夜に訪花するスズメガ類により依存し、それらの時間帯に花香や蜜を多く分泌することで、より適応していると考えられる。


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