| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-089  (Poster presentation)

虫媒花における、形態と花色の相関進化

*角屋真澄(富山大学), 辻本翔平(富山大学), 久保田将裕(富山大学), 渡邉裕人(富山大学), 工藤岳(北海道大学), 石井博(富山大学)

 共通の訪花者グループに送粉を依存する植物に、特定の花形質が系統を超えて収斂的に進化してくる現象を送粉シンドロームと言う。この現象は、花形質群の特定の組み合わせが、他の組み合わせよりも進化しやすいことを予測する。たとえば、ハナバチ媒花には青色で花蜜が花筒の奥に隠れているものが多く、ハエ・ハナアブ媒花には白色や黄色で花蜜が露出した皿状か碗状のものが多いと言われる(好腐バエ媒花を除く)。従って、ハナバチとハエ・ハナアブが主要な送粉者である植物群集では、<青色-花筒あり> や <白・黄色-花筒なし> の組み合わせが、<青色-花筒なし> や <白・黄色-花筒あり> の組み合わせよりも、多く生じることが予測される。しかし、植物群集にこのような偏りが存在するのかは、これまで明らかにされて来なかった。
 そこで本研究では、花色と花形態に着目し、地理的に離れた4つの植物群集(モンゴル-半乾燥草原/日本-立山の高山帯/スウェーデン-北極圏の亜高山帯~高山帯/ニュージーランド-南島の高山帯)で、花色と花形態の対応関係を調査した。調査では、各調査地で開花が確認されたすべての植物種を対象に、花色と花形態の計測を行った。花色は、300-700nm域の反射スペクトルをもとに、膜翅目の色覚モデル(bee color hexagon: Chittka1992)を用いて評価した。また、可能な限り、各植物種への訪花者を記録した。
 その結果、訪花者のほとんどが双翅目で占められていたニュージーランドを除き、花筒の長い花ほど、膜翅目の色覚モデルにおけるnon-greenish系の色(人の色覚における青・紫・赤系に対応)の割合が高い傾向が見られた。この傾向(=花色と花形態の相関関係)は、各群集を構成する植物種の系統の偏りを考慮しても支持された。各植物種の訪花者相と合わせて検討した結果、この傾向が、送粉シンドロームによってもたらされていることが示唆された。


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