| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-C-107  (Poster presentation)

菌食甲虫ツツキノコムシ類における寄主利用の分化

*小林卓也, 曽田貞滋(京都大学)

生殖隔離と遺伝的分化があるにもかかわらず形態による判別が困難な種(隠蔽種)を適切に識別し、その生態的な分化を明らかにすることは生物多様性や進化の道筋を理解する上で重要である。特に広域分布する普通種では、実はハビタット利用や食性の特殊化した複数の隠蔽種が含まれていたという場合も珍しくない。
菌食性は昆虫の食性の中でも重要なもののひとつであるにもかかわらず、寄主特異性に関する知見は少なく、特に寄主菌類の属内レベルでの特殊化はほとんど知られていない。本研究では、菌食甲虫であるツヤツツキノコムシOctotemnus laminifrons(ツツキノコムシ科)を対象とし、形態およびDNA情報から本種には寄主利用の分化した複数の隠蔽種が含まれることを明らかにした。
ツヤツツキノコムシは日本全土に分布が知られ、全生活史をカワラタケなど革質の多孔菌類に依存する。前胸背板に光沢があり、体長2mm程度、オスは発達した大顎を持つといった形態的特徴から他種と区別される。演者らは北海道から南西諸島にかけて上記の形態的特徴を有する個体をサンプリングし、分子系統解析とオス交尾器の形態観察を行った。
その結果、ミトコンドリアDNAのCOI領域の配列では分化の大きな4つの系統が認められ、オス交尾器の形態も各系統間で異なっていた。またこれらの各系統は寄主として利用する多孔菌類の種類、範囲にも違いがみられた。分子系統、形態、寄主利用パターンは同所的に分布する個体群のサンプルでも一貫して異なっており、系統間では生殖隔離が成立していると考えられた。さらにRAD-seqを用いた系統解析に基づく寄主利用の祖先形質推定からは、一部の系統で寄主利用の特殊化が生じていたことも示唆された。


日本生態学会