| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-C-119  (Poster presentation)

森林性野ネズミの生態と生息地の標高は関係しているのか?-屋久島原生林における検証-

*肥後悠馬, 三浦光, 梶村恒(名古屋大・院・生命農・森林保護)

 本研究は、屋久島の垂直的な植生構造に着目し、野ネズミ個体群の種構成や形態、繁殖期がそれらの生息地の標高によってどのように変化するのかを明らかにする目的で行った。調査地として、①低標高域 (約400 m、照葉樹林帯)、②中標高域 (約1000 m、針広混交林帯)、③高標高域 (約1800 m、ササ草原帯)を選定した。
 2015年7∼8月、10∼11月および2016年5, 7, 9, 11月に、各調査地において、シャーマントラップを設置し、ネズミを生け捕りした(2016年5, 7月は調査地①②のみ)。捕獲されたネズミの種、性別、体重、全長、頭胴長、尾長、繁殖サインなどを記録し、指切り法で個体識別した後に放逐した。
 その結果、ヒメネズミApodemus argenteusとアカネズミA. speciosusが確認され、調査地ごとに生息状況が大きく異なった。低標高域では、アカネズミが優占種となったが、全体的にネズミの個体数が他の標高域に比べて著しく少なかった。これに対して、中標高域と高標高域では、ヒメネズミが多く捕獲された。アカネズミは、高標高域では見られなかった。一方、中標高域と高標高域の中間(約1500 m、ササ草原への移行帯)で予備的な捕獲を行ったところ、アカネズミが確認された。従って、屋久島におけるアカネズミの生息域は森林内に限られるものと考えられる。ただし、このようなネズミの分布パターンには、植生だけでなく他種の動物との関係、あるいは気温などの物理的環境要因も影響しているかもしれない。また、形態と繁殖期にも調査地間で差が見られた。特に、アカネズミの全長、頭胴長、尾長を比較したところ、標高が高くなるにつれて小型化する傾向が見られた。繁殖期は低標高域で冬1山型、中標高域で春秋2山型、高標高域で夏1山型であると推測され、本州で緯度勾配に沿って見られる3つの繁殖パターンが屋久島内で共存する可能性が示唆された。この結果も標高による気温の差に起因するものと考えられる。


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