| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-C-123  (Poster presentation)

ヒトの個体群動態パラメータに与える緑地環境の影響

*高橋すみれ, 小池文人(横浜国立大学)

日本において少子化は社会の重要な問題であるが、人口減少は日本だけに留まらず世界に通ずる問題である。ヒトの個体群動態は社会科学的な視点で様々な要因の影響が示唆されてきた一方で、多くの生物で比較研究を行っている生態学的な視点では、ヒトの個体群動態に与える自然環境の影響は十分に解明されていない。本研究では保全生態学の手法を用いて多様な環境を含む日本の市区町村を対象とし、社会的要因の影響を補正して、ヒトの純増殖率に与える緑地環境の影響を明らかにすることを試みた。

基礎自治体と行政区を合わせた日本国内1901市区町村のうち400(21.0%)について、母年齢別年間出生率と年齢別年間死亡率から純増殖率(R0)を求めた。緑地環境の影響をより正確に解析するため移出入の間接効果、経済状況、地方差の3つの社会的要因が与える影響を、一般線形回帰分析を行い補正した。緑地環境には市街地率、草本・低木植生率、高木植生率、徒歩圏内の海の有無の4つの変数を含めた。

解析の結果、社会的要因の影響を補正した後で、草本・低木植生率と高木植生率が正の影響を及ぼしていた。予測値と実測値ともに、草本・低木植生率や高木植生率が高い自然的な環境にある市区町村の純増殖率は高く、市街地率が高い都市的な環境で低かった。

社会的要因を補正する過程で得られた結果として、地方差は関東甲信越を基準とした際、九州沖縄を筆頭に他の地域で正の影響を及ぼしており、過去から続く地域固有の文化等が重要性を持つと推察される。原理的にR0は移出入の影響を受けないが、移出の多い地域でR0が低くなる傾向があり、集団の中でパフォーマンスの高い個体が多く移動することで地域の出生率が増減した可能性がある。なお、地域としての経済状況の影響は検出されなかった。


日本生態学会