| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-C-128  (Poster presentation)

野生ボノボ隣接3集団の血縁構造

*石塚真太郎, 坂巻哲也, 徳山奈帆子, 戸田和弥, 岡村弘樹, 橋本千絵, 川本芳, 古市剛史(京都大学霊長類研究所)

動物の社会では集団内だけでなく集団外の個体との社会交渉も存在することから、その理解のためには集団内外の個体間の血縁関係を調べる必要である。父系の複雄複雌集団を形成するボノボは、多くの他の動物種とは異なり、隣接集団の個体と頻繁に親和的交渉や交尾を行うなど、親和的な集団間関係を示す。この集団間関係は隣接集団の個体間が血縁で結びついているからである可能性があることから、我々は野生ボノボ隣接3集団(E1, PE とPW)の68個体からDNAを採取し、集団内と隣接集団間の血縁構造を明らかにした。まず繁殖成功度を評価した結果、集団内の16子中9子が第一位オスに残されていた。この繁殖成功の偏りは、第一位オスが最も高い交尾成功を享受することや、母親が第一位オスの交尾成功を上げていたことに因ると考えられる。また子の父親が集団外のオスであることを裏付ける証拠は得られず、隣接集団の個体間の交尾が繁殖に結びつくことは稀であると考えられた。次に3集団の全成熟個体間ペアについて、血縁度と血縁関係を推定した。平均血縁度と推定された血縁ペアの割合は、集団内のオス間の方が隣接集団のオス間よりも有意に高かった。これはオスの出自集団内での定住や繁殖成功の偏りによって集団内のオス間の血縁が強くなっていることや、隣接集団の個体との繁殖が稀であり、隣接集団のオス間が遺伝的に分化していることに因ると考えられる。一方でメス間においては、平均血縁度と推定された血縁ペアの割合には集団内と隣接集団間の間で有意な差が見られなかった。これはメスの分散から予測されることと一致し、集団に定着しているメスが様々な出自集団に由来することを示唆している。血縁選択説からは、メスは隣接集団のメスに対し、同じ集団のメスと同様に接することが予想できる。ボノボではメスが集団の振る舞いに大きく寄与することから、これらが親和的な集団間関係の形成に貢献しているのかもしれない。


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