| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-D-138  (Poster presentation)

ミナミメダカ内で広域に検出されるマイトタイプの在来性

*入口友香(近大院農), 中尾遼平(近大院農), 高田啓介(信大理), 北川忠生(近大院農)

ダツ目メダカ科の淡水魚であるミナミメダカOryzias latipesは,北海道と北陸以東の日本海側を除く日本列島に広く分布し,水田等の氾濫原環境を主な生息場所とする.本種は,生息地の減少や外来種による影響で急速に減少し,環境省版レッドリストにおいて絶滅危惧II類に指定されている.さらに,保護活動や環境教育等を目的として,本種の地理的分化を無視した放流が日本各地で行われており,野生集団における遺伝的撹乱が問題となっている.特に関東地方(東京都・千葉県・茨城県・栃木県)では,九州北部や山口県(以下九州北部地方)を中心に自然分布するmtDNAのcytb領域の遺伝子型であるマイトタイプB15が多数検出されており,人為的な移殖によることが示唆されてきた.また,最近の全国的な遺伝学的調査においても,マイトタイプB15は関東地方から九州北部地方に広範囲かつ不連続的に検出され,ほかのマイトタイプにはない分布を示していた.そこで本研究では,全国で採集されたマイトタイプB15を持つ個体について,mtDNAのND2領域の塩基配列を決定し,得られたハプロタイプを比較した.ND2の配列から検出されたハプロタイプは,ハプロタイプネットワークにおいて地理的にまとまりがあるいくつかのグループに細分された.関東地方の集団は,3種類のハプロタイプのみで構成されていた.さらに,関東地方の集団からもっとも多く検出されたハプロタイプを中心として稀なハプロタイプ2つがそれぞれ派生していた.そのため,以下の可能性が考えられる.(1)関東地方では,九州北部地方の遺伝的構造が関東地方で検出可能なほど大規模放流(または小規模放流の積み重ね)が行われていた,(2)関東地方では,マイトタイプB15が固有系統として存在していた.今後,この2つのどちらであるかを明らかにするため,個体数・地点数を増加し,検証を続けていく.


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