| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-D-141  (Poster presentation)

雄物川本流における稀少淡水魚ゼニタナゴの再発見

*坂田雅之(神戸大・院・発達), 真木伸隆(パシフィックコンサルタンツ(株)), 杉山秀樹(秋田県大), 源利文(神戸大・院・発達)

 生物多様性の損失は重大な問題であり、特に淡水域は損失が著しい生態系の一つである。例えば、日本の淡水域に生息するタナゴ亜科(Acheilognathinae)に含まれる在来魚16種のうち、実に15種が環境省版レッドデータブックに記載されている。中でもゼニタナゴ(Acheilognathus typus)は絶滅危惧ⅠA類に指定されており、本来は大河川の本流に生息していたが、土地利用の変化や開発、外来魚の侵入などにより生息地が減少している。本種の保全には本来の生息地である大河川における繁殖地の発見が重要であるが、生息個体数自体が少ないため個体の採捕が困難であるうえ、河川では産卵基質となる二枚貝の確認にも困難がある。そのため河川における分布調査では調査コストに対して期待される成果が小さいということが課題である。
 そこで、簡便かつ低コストで水域の生物多様性評価を行える手法として近年注目される環境DNA分析手法を用いて、稀少淡水魚ゼニタナゴの確認と新規繁殖地の発見を試みた。本研究では、対象種に特異的なリアルタイムPCR検出系を作成し、本来の生息地で大河川の北限である雄物川の99地点から得た環境水を用いて、広範囲のスクリーニングを実施した。さらに、環境DNAが検出された地点で採捕調査および二枚貝に設置した産卵トラップ調査を行った。
 その結果、2地点でゼニタナゴの環境DNAを検出することに成功し、うち1地点で成魚が雌雄各1個体採捕された。また、産卵トラップの二枚貝25個体のうち約3割の貝個体に産卵されていた。ゼニタナゴの本来の生息環境である大河川の代表的存在である雄物川における成体の確認は11年ぶりであり、環境DNA手法と従来の採捕調査を組み合わせることで、多様性の保全において非常に重要な繁殖地の情報を得ることができることを示した。


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