| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-E-180  (Poster presentation)

樹洞の希少種オオチャイロハナムグリとクマ剥ぎの関係

*瀬口翔太, 澤畠拓夫(近大院・農・生態系管理)

樹洞は樹木の心材並びに辺材の両方が腐朽し,そこに物理的な崩壊が生じることで生成される.樹洞は樹木の老齢化に伴い発生頻度が増加するため,巨木が多く自生する原生的な森林の減少に伴い,樹洞性生物の多くが絶滅を危惧されている.オオチャイロハナムグリは樹洞内に溜まった腐植土で繁殖する甲虫類で,環境省版RDB2014で準絶滅危惧に指定されている.ヨーロッパ産の種はEUの生息地指令の付属書IVに指定され,最も高い優先度で保護され研究が進められているのに対し,日本産種では研究がほとんど行われていない.そこで,本種の生息地と繁殖木の特性について調査するため,採集情報を基に全国的な踏査を行ったところ,京大芦生研究林において本種の生体並びにフンが存在するスギ樹洞木を41本確認した.本種の繁殖木と非繁殖木とを比較した結果,本種は繁殖木として大径木を好む傾向があり,調査した全てのスギ樹洞(88個)のうち64%(56個)はクマ剥ぎが関与したものであったが,樹洞の形状に対し選好性は認められなかった.繁殖に利用された全ての樹洞は,樹洞内の腐植土・樹洞壁が褐色腐朽により生じていたことから,腐朽型の違いが本種に与える影響について実験を行った.マスタケ(褐色腐朽菌)とコフキタケ(白色腐朽菌)を接種し4ヶ月間培養した菌床に対し腐植土を1:3の容積比で混合したものを用いて2齢幼虫の飼育を行ったところ,マスタケ菌床混合区では,コフキタケ菌床混合区および腐植土のみの対照区と比較して,1ヶ月後の体長増加率が有意に大きく,褐色腐朽後に生じる腐植土が本種の生育に適する可能性が示された.一般的に針葉樹心材には褐色腐朽が生じやすい.芦生研究林では,心材腐朽を生じたスギ大径木に対しツキノワグマが樹皮剥ぎを行うことで辺材が露出・腐朽し,林分内に多数の大径木・褐色腐朽型の樹洞が形成されたことで,オオチャイロハナムグリの生息地形成に繋がったことが示唆された.


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