| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-E-182  (Poster presentation)

アマゾンの孤立二次林に生息する3種のサルの食性と給餌への依存度の比較

*武真祈子(京都大・霊長研), Wilson Spironello(国立アマゾン研究所(INPA)), 湯本貴和(京都大・霊長研)

人間活動の拡大にともない、森林の分断化が世界各地で進んでいる。都市の周辺あるいは中心部に残された孤立林が、野生動物の貴重な生息地になる場合も少なくない。野生動物との共存を考える時、本来の生息環境での生態だけでなく、孤立林のような人為的な環境への適応能力を理解することも重要である。その際に食性は最も基本的かつ中心的な情報となる。

本研究では、アマゾン川流域の都市孤立林に同所的に生息するサル3種(フタイロタマリン、コモンリスザル、キンガオサキ)の食性に注目した。この調査地では、サルたちは給餌と森林資源の両方を利用している。この人為的な食物環境のもとで、各サル種の自然下での食性の特徴は維持されるのだろうか。また、給餌への依存度はサル種ごとに異なるのだろうか。以上の点を明らかにするために、各サルのグループを追跡し、行動観察および食物品目の記録を行った。

結果として、給餌への依存度(採食時間割合)はサル3種間で差がなく、どのサルも採食時間の80%以上は森林内の食物を利用していた。森林内で利用した食物品目の構成はサル種ごとに大きく異なり、それぞれの食性の特徴が維持されていた。外来の果実もサルにとって重要な食物資源になっていた。

以上のことから、給餌だけでは彼らの栄養要求をまかないきれず、森林資源の利用が不可欠であること、また、都市孤立林という人為的影響の強い環境下においても、何を食べるかという点で、種ごとの特徴がかなりの程度で保守されることが示された。サルの採食行動は、単なるエネルギー摂取でなく、複数の栄養素のバランスよい獲得を目標としており、目指す栄養バランスは種ごとに異なっているのだと考えられる。

霊長類の人為的環境への適応には、本来の栄養要求を満たすという意味での「保守性」と、その環境特有の食物資源を利用する「柔軟性」の双方が鍵となることが示唆された。


日本生態学会