| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-194  (Poster presentation)

安定同位体比によるアユの産着卵の生活史型と産卵回数の推定

*沢田隼(龍谷大学・院・理工), 重田環志(龍谷大学・院・理工), 川上将樹(龍谷大学・院・理工), 遊磨正秀(龍谷大学・理工), 丸山敦(龍谷大学・理工)

 アユ(Plecoglossus altivelis altivelis)は、琵琶湖で最も優占する水産有用魚である。一般に、河川へ遡上し成長するオオアユと産卵期まで湖で成長するコアユの二型に大別されるが、詳細な調査から、この二型は連続的な生活史変異の両端に過ぎないとも考えられている。産卵期には、異なる生活史を持つ成魚が河川の下流域に集まり産卵する。各生活史型により産卵の時期や場所が異なることや多回産卵する小型アユの存在が指摘されてきたが、各生活史型の卵に外見上の違いがないため、各生活史型が占める産卵量の割合などは明らかではない。本研究では、アユの生活史変異から産着卵に炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)の違いが生じると考え、産着卵から親の生活史型を推定すること、多回産卵アユの産着卵を判別することを目的とした。
 琵琶湖に流入する12河川において、産卵期(2015年9月〜11月)に3〜4回産着卵を採取し、同位体分析を行った。また、成長期(2016年5〜12月)に河川の上・中・下流で潜水調査を行い、アユが付着藻類を食む場所を定量的に把握し、その場の付着藻類を採取して同位体分析を行った。アユの食み数で重み付けした藻類のδ13C・δ15Nから、上・中・下流で成長した場合の産着卵のδ13C・δ15Nを推定した。
 産着卵のδ15Nは産卵期の深まりとともに連続的に下降し続け、δ13Cでは上昇し続けた。これは、湖で成熟したアユの産着卵が徐々に減少したことを示唆する。姉川と安曇川では上・中・下流の藻類のδ13C・δ15Nに差があったため、下流で成長したアユ及び多回産卵アユと上・中流で成長したアユの判別は可能となった。姉川では、産着卵のδ13C・δ15Nの連続的な変化は下流で成長したアユまたは多回産卵アユが徐々に増加したためと考えられた。安曇川では、中流で成長したアユの産着卵が増加したことが示唆された。産着卵の同位体分析は、オオアユとコアユの区別に留まらず、親の生活史型をある程度推定する手段になると考えられる。


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