| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-196  (Poster presentation)

森林と里山環境におけるフクロウの繁殖状況の比較

*草間由紀子(横浜国立大学大学院 環境情報学府), 小池文人(横浜国立大学大学院 環境情報学府), 滝沢和彦(日本野鳥の会長野支部)

フクロウStrix uralensisは,国内では,北海道から九州までの針広混交林,落葉広葉樹林,常緑広葉樹林,農耕地などに生息しており,大きな樹洞に営巣するため,里山生態系のアンブレラ種(鷲谷・矢原1996)の1つと考えられている.本研究では巣箱を設置することにより樹洞の環境を統一し,周辺環境が繁殖状況に与える影響を明らかにした.
調査地は,カラマツ人工林が多くを占める飯縄山の南山麓と,牧草地が多くを占める北山麓,中野市市街地東部の山林と,市街地西部の丘陵地である.巣箱の周囲の半径800m以内を森林が覆う比率は,最大100%,最小33%,中央値77%であった.標高は450mから1300mである.
2003年から2016年にかけて,のべ173個の巣箱を設置した.繁殖が確認された巣箱においては,次の繁殖期前に清掃し巣箱のメンテナンスを毎年行った.繁殖期には設置巣箱全てにおいて,繁殖の妨げにならないよう注意しながら,繁殖の有無,一腹卵数,ヒナ数,を記録した.一腹卵数は平均2.5,最小1,最大4であり,孵化率の平均85%であった.中には,すべての卵がヒナに孵らず全滅してしまった巣箱が7例あった.
営巣率など繁殖には年変動が大きかったため,調査年をランダム効果としてglmmMLによって周辺環境による繁殖への影響について分析を行った.フクロウの営巣率(巣箱あたり営巣確率)は森林で少なく,巣箱あたり産卵数も森林で少なく,さらに卵が孵化して巣立つ確率(卵あたり巣立ち確率)も森林で低かった. 樹洞が確保されている条件下では,森林よりも田畑や果樹園などが多くある里山環境がフクロウの繁殖には適していた.


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