| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-200  (Poster presentation)

森と川の季節的なつながりがアマゴの生活史を多様にする?:混合分布モデルによるアプローチ

*宇梶伸(神戸大院・理), 上田るい(神戸大・理), 金岩稔(三重大院・生資), 瀧本岳(東大院・農), 佐藤拓哉(神戸大院・理)

 個体群内に維持される成長や成熟年齢等の生活史の多様性は、個体群動態の安定化に寄与する。森林から河川に流入する陸生昆虫は、サケ科魚類の重要な餌資源となり、それらの個体成長や個体数に強く影響する。しかし、陸生昆虫流入の「季節性」が、サケ科魚類の成長や成熟年齢に影響し、生活史の多様性維持に寄与する仕組みは明らかでない。
 本研究では、6-8月(春供給)と8-10月(夏供給)にそれぞれ同じ供給率で陸生昆虫を投入する実験区と、無供給の対照区を自然河川に設定し、アマゴ(Oncorhynchus masou ishikawae)の成長と成熟年齢を調べた。6月、8月、および10月のアマゴ1歳魚の体長データを用い、潜在変数(≈成長戦略)を個体IDに関連付けた混合分布モデルを構築して、成長戦略とその多様性を実験区の間で比較した。
 その結果、アマゴ1歳魚に、2つないし3つの成長戦略を含むモデルが選択された。2つの成長戦略(高成長と低成長)を認めるモデルの結果では、高成長戦略を採用した個体は、春供給区で秋供給区よりも多く、対照区では認められなかった。この傾向は、特にメスで顕著であった。高成長戦略を採用した個体は、オスメスともに、低成長戦略を採用した個体よりも高い成熟率を示していた。また3つの成長戦略を認めるモデルでは高成長・低成長に加えて秋に主に成長する秋成長戦略が見出された。これらの成長戦略の多様性を処理区間で比較するために、成長戦略の多様度指数を処理区ごとに計算した。その結果、春供給区は、秋供給区と対照区よりも高かった。
 これらの結果は、春に陸生昆虫が供給されることで、特にメスに高成長戦略が生まれ、成長戦略と成熟年齢に多様化をもたらしたことを示唆する。今後、世代を通した野外調査結果に同様の解析を適用することで、森から川への季節的な陸生昆虫流入が、サケ科魚類の生活史の多様性維持やさらには個体群の長期動態に及ぼす影響の解明に迫れるかもしれない。


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