| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-202  (Poster presentation)

付着性腹足類キクスズメの性成熟に影響する要因

*安岡法子(奈良女子大院), 入江貴博(東大大海研), 澤田紘太(水産研究・教育機構   国際水産資源研究所), 山口幸(神奈川大・工)

キクスズメSabia conicusは潮間帯から潮下帯に生息する巻貝上に着生する小型の腹足類である。これまでの観察から,キクスズメは雄性先熟であること,死んだ宿主から生きた宿主へ移動することなどが知られている。交尾を行うため,個体間の距離や移動性は性成熟と関係すると考えられるが,性成熟に影響する要因や,移動性のパターンは明らかになっていない。そこで本研究では,体サイズや付着位置が性成熟に与える影響を明らかにし,移動性について観察を行った。
 白浜水族館で飼育されていた宿主の巻貝に付着していたキクスズメを解剖し,体サイズ,付着位置,性を記録した。性は交尾器の観察できた個体をオス,観察できなかった個体のうち最小抱卵サイズの9.9 mm以上の個体をメス,それ以外を未成熟とした。また,キクスズメが付着した巻貝と付着していない巻貝を同じ容器に入れ,8日間行動観察を行った。
 その結果,メスよりも大きいオスは見られず,オスと未成熟個体の体サイズには重複があり,オスの方が大きかった。オスと未成熟個体に限って解析すると,体サイズと付着位置の両方が性成熟(未成熟orオス)に影響し,宿主に付着している個体は大きい傾向にあるがオスは少なく(34.9 %),メスの上に付着している個体は小さい傾向にあるがオスが多かった(67.7 %)。また,キクスズメ193個体中6個体(3.1 %)が移動し,これは宿主が死亡しなくても観察された。宿主間移動は1例見られたが,ほとんどが同一宿主内での移動であった。移動した個体は未成熟か,性の移行段階である不完全な交尾器をもつ個体であった。
 以上より,キクスズメのオスへの成熟は体サイズと付着位置に影響を受け,メスの上に付着した際には小さなサイズでも早く成熟することが示唆された。また,移動性はあまり高くないが,メスへと性転換するまでは移動能力があると示唆された。


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