| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-203  (Poster presentation)

モリアオガエルの繁殖同調:空間スケールごとの駆動要因

*高橋華江, 佐藤拓哉(神戸大学・理)

フェノロジーはその種の適応度だけでなく、種内・種間相互作用の強さや期間を規定する要因としても重要である。生物の繁殖フェノロジーはしばしば物理化学的要因(例えば気温や降水量)や社会的要因(例えば他個体からのシグナル)により同調し、次世代が受ける捕食圧を緩和させたり、捕食者を一時的にある生息地へ集中させたりする。標高や緯度などの地理的スケールに沿って種内でフェノロジーに変異があることは一般的だが、近年、比較的小さな空間スケールの中でも種内のフェノロジーには変異があることがわかってきた。このような小スケールで起こるフェノロジー変異は地理的なスケールとは異なった要因により駆動されているかもしれない。小さな空間スケール内でのフェノロジーの定量化と要因の解明は、 複数のパッチをもつ環境で起きる固有の生物間相互作用を発見・予測する一歩となるだろう。そこで、長い繁殖期をもつ日本産両生類モリアオガエル (Rhacophorus arboreus) に注目して、地域スケール・各池スケールでの繁殖がどのように決まるか検討するため、複数の池の繁殖フェノロジーとその同調の程度を定量化した。
京都大学芦生研究林において、20ヶ所の池でモリアオガエルの産卵がいつ行われたかを三年間調査した。地域全体では、繁殖フェノロジーは同調する傾向を示しており、気温・湿度といった環境要因が産卵を予測することが示された。しかし、各池間では繁殖フェノロジーは同調していなかった。池間の繁殖フェノロジーの変異は、池間の距離や水温ではほとんど説明されなかった。また、年によって各池の相対的な産卵数は変化しないが、繁殖フェノロジーは年ごとに異なることが示された。以上の結果から、芦生地域のモリアオガエルの繁殖フェノロジーは、大きくは物理化学的な要因によって同調しているが、各池では年ごとに変動する要因によって決まっていることが示唆された。


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