| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-G-222  (Poster presentation)

捕食者が増えると捕食効率が高まる?:捕食-被食関係の密度依存性に関する新規プロセスの検証

*松尾寛(神戸大院・理), 立木佑弥(京大・ウィルス研), 岸田治(北大・FSC), 佐藤拓哉(神戸大院・理)

捕食効率は、捕食-被食系の個体群動態や群集の安定性を理解・予測する上で重要な要素である。捕食効率に影響を与える要因として、捕食者密度に注目したすべての先行研究は、捕食効率が捕食者の密度上昇に伴って低下することを示している。しかし、捕食者の攻撃から逃避している被食者は、他の捕食者個体との遭遇頻度が高まり、遭遇した際には捕食されやすくなっている可能性がある。そのようなプロセスが強く働く場合、捕食効率は、捕食者の密度上昇に伴って高まるかもしれない。
本研究では、アカハライモリとニホンアマガエルの幼生(オタマ)を用いた水槽実験を行い、捕食効率が捕食者の密度上昇に伴って高まるかを検証した。また、一般に捕食効率を低下させる捕食者間の競争と、捕食効率を高めると予測される捕食者-被食者の遭遇頻度・捕食者の捕食成功率について、捕食者密度との関係を解析した。
その結果、イモリの密度上昇に伴って捕食効率が高まることが確認された。また、オタマの減少速度(消費型競争)とイモリ間の噛み付き合いの継続時間(干渉型競争)は、いずれもイモリの密度上昇に伴って増加していた。一方、予想と異なり、イモリ1個体がオタマと遭遇する頻度は、イモリの密度上昇に伴って低下したが、逃避中のオタマに対するイモリの捕食成功率は、通常時のオタマに比べて約2.8倍高かった。この捕食成功率の高まりによる捕食効率を高める効果が、捕食者間の競争の強度が高まることによる捕食効率を低下させる効果を上回ることで、捕食効率が高まったことを示唆する。そこで、この仮説に関わる行動プロセスを考慮した数理モデル解析を行った結果、観察データに基づくパラメータ領域内で、捕食効率がイモリの密度上昇に伴って高まることが理論的に確かめられた。捕食効率の密度依存性を理解する上で、捕食者との遭遇時の被食者の行動変化を考慮することは、従来考えられていたよりも重要かもしれない。


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