| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-G-229  (Poster presentation)

都市景観と枯死木依存性甲虫群集

*宮崎怜, 小池文人(横浜国立大学)

枯死木を利用する甲虫を含むさまざまな生物は枯死木依存性種(Saproxylic species)と呼ばれ,枯死木分解に寄与する生態系を形成し森林内の物質循環に寄与している.しかし小面積都市林での研究は,絶滅危惧種など狭い分類群の研究に限られていた.本研究では,小面積都市林と大面積山地林の枯死木依存性の大型節足動物群集を比較することで,都市林における群集の特性を明らかにした.
都市分断林から広大な森林地域の中の照葉樹林まで,暖温帯における面積の異なる5つの森林で調査を行った.各調査地に10m×10mの調査区を3箇所設置し,その中にある枯死木を最大10本割材することで枯死木を利用している節足動物をサンプリングした.
非類似度をもとにした2次元NMDS散布図上の分布パターンにより2つの群集タイプに分類した.これらの群集は,調査区が属する森林全体の面積(内接円面積の対数)に有意な差があり,大面積山地林群集と小面積都市林群集が存在していた.
Rare-fraction curveによると,小面積都市林でアバンダンスが大きな種が存在し多様性が低かったが,大面積山地林では個体数の少ない種が多数存在し多様性が高かった.大面積山地林では栄養段階の高い肉食種が多かったが,小面積都市林では枯死植物も食べる雑食者や菌食者が多かった.また小面積都市林ではダンゴムシやワラジムシなど,枯死木以外も広く利用するジェネラリスト的な種が多かった.
このように大面積山地林は,植物から大型の動物まで様々な生物に共通する,安定して成熟した群集の特徴を持つが,小面積都市林では一時的であったり不安定であったりする環境における群集の特徴を持っていた.
小面積都市林に特異的に出現する種のひとつとして,コクワガタ(Dorucus rectus)が検出された.コクワガタは子供に人気であるとともに,幼虫時の体積の大きさから,都市林における重要な木質分解者で,象徴種となりうる.


日本生態学会