| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-G-243  (Poster presentation)

二ホンジカ遺体の分解における中・大型食肉目動物の役割の評価

*稲垣亜希乃(東京農工大学), 丸山哲也(栃木県林業センター), 小池伸介(東京農工大学)

スカベンジャーとは、脊椎動物遺体の分解に関わる脊椎動物であり、脊椎動物遺体の採食(以下、スカベンジング)を行うことにより、脊椎動物遺体の大部分を消失させる。これまでの大型脊椎動物遺体のスカベンジングを対象とした先行研究は、採食行動をスカベンジングに特化させた、あるいは大型脊椎動物の捕食者としての役割も担うスカベンジャーが生息する地域を対象にした事例に限られる。

日本の森林生態系にはこのようなスカベンジャーが存在しないため、大型脊椎動物遺体をめぐって特有のスカベンジャー群集やスカベンジャー間の種間関係が存在する可能性がある。そこで本研究では、日本の森林生態系でのシカ遺体-スカベンジャー群集関係の季節変化とそれに及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。

調査は栃木県日光市の森林内にて、センサー式自動撮影カメラを用いて、シカ遺体を訪問した各スカベンジャー種のスカベンジングを記録した。その結果、シカ遺体のスカベンジングは、ほとんどが中・大型食肉目で占められ、特にツキノワグマとタヌキによる支配的なスカベンジャー群集構造が存在した。また、夏季に比べ秋季ではシカ遺体の利用可能期間は長く、タヌキのスカベンジング時間も秋季は夏季よりも増加した。しかし、ツキノワグマのスカベンジング時間は両季節では違いが無かった。これは、ツキノワグマの食性の季節変化が影響していると考えられる。さらに、ツキノワグマのシカ遺体への訪問は、タヌキのスカベンジング時間に対して夏季では負の影響、秋季では正の影響を与えていた。以上から、シカ遺体の利用可能期間の季節変化だけでなく、相対的に上位スカベンジャー種であるツキノワグマのスカベンジング機会の季節変化も各種のスカベンジング行動に影響した可能性が考えられる。


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