| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-H-245  (Poster presentation)

標高傾度にそった植物の群集形成メカニズム:中部山岳における形質に基づいた解析

*大堂太朗(信州大学大学院総合理工学研究科), 高橋耕一(信州大学理学部)

群集の形成機構を理解することは生態系の維持・保全に関して重要である。群集形成には環境と競争の二つの要因が重要であると提唱されている。環境要因の効果が大きい群集では、環境条件に対して適応できる形質を持つ種しか生存できないため、群集内の形質は制限される。一方、競争要因の効果が大きい群集では、種は生態的に類似した他種を排除するため、群集内の形質の分布は分散・均一化する。しかしながら、これまでの研究では、調査種を限定した植物群集の一部分しか調べていない研究がほとんどであった。そこで、本研究では標高傾度にそって種組成が大きく変化する山岳地域において、植物群集全体の群集形成メカニズムを環境要因と競争の観点から機能的形質を用いて定量化した。調査は中部山岳の標高100 - 2500 mにおいて、すべての維管束植物の植物高、個葉面積、SLA (葉乾重量あたりの葉面積)、Nmass (葉の窒素濃度) の4つの形質を対象におこなった。調査の結果、標高800 - 1100 mの落葉広葉樹林では、個葉面積とSLAについて競争要因のみの効果がみられた。標高800 - 2500 mの範囲内では、高い標高ほど環境要因の効果が増加し、植物高や個葉面積の小さい種に制限されていた。また、個葉面積では、環境要因の効果が検出された標高で、同時に競争要因の効果も検出された。本研究では、植物群集全体に作用する群集形成メカニズムの効果が標高によって異なり、落葉広葉樹林である標高では競争の効果が大きく、標高が高くなるにつれて環境要因の効果が大きくなることを明らかにした。本研究の結果は環境の変化に対して、植物群集がどのような影響を受けるかを予想する手がかりとなるだろう。


日本生態学会