| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-292  (Poster presentation)

暖温帯コナラ林におけるバイオチャー散布がリターの分解速度に及ぼす影響

*南埜幸也(神戸大・農学), 酒井理恵(神戸大・院・農学), 鈴木武志(神戸大・院・農学), 藤嶽暢英(神戸大・院・農学), 友常満利(神戸大・院・農学)

近年、地球温暖化対策の一つとして、バイオチャーの活用が注目されている。これを森林土壌圏に散布した場合、土壌改良剤としての純一次生産量の増加効果に加え、難分解性による炭素隔離が期待されている。一方、土壌有機物の分解が促進され、炭素隔離効果を相殺する可能性も指摘されている。本研究では、その散布の影響を最も受けやすい有機物堆積層に着目し、森林生態系へのバイオチャー散布が有機物分解に与える影響とその炭素隔離効果を検証した。
埼玉県本庄市の暖温帯コナラ林において、バイオチャーの散布量を2段階に分けた散布区 (5、10 Mg ha⁻¹区) と対照区 (C区) を用意した (n=3)。バイオチャーよりも下層となる旧リターと上層となる新リターを封入したリターバッグを設置し、その重量減少 (%) と全炭素量の測定をおこなった。
重量減少は、旧リターにおいては散布区とC区に有意な差が認められなかったが、新リターにおいては散布区 (45.6~49.5) の方がC区 (40.3) より大きく、特に10 Mg ha⁻¹区で有意な差が認められた。また、各季節において分解速度は散布区の方がC区よりも常に高い傾向にあった。これは、旧リターは散布区、C区ともに下層であるため乾燥しにくい環境下にあるが、新リターはバイオチャーの調湿作用により散布区の方がC区よりも常に含水率が高く保たれ、分解が促進されたことが一因であると考えられた。リター分解に伴う年間炭素放出量はC、5 Mg ha⁻¹、10 Mg ha⁻¹区でそれぞれ4.4、5.2、5.4 (MgC ha⁻¹ yr⁻¹) と推定された。すなわち、バイオチャーの散布により0.80、0.98 (MgC ha⁻¹ yr⁻¹) の炭素が過剰に放出されたこととなり、これはバイオチャーとして隔離された炭素の23、14 %に相当する。したがって、森林生態系へのバイオチャー散布は有機物堆積層のリター分解を促進し、炭素隔離に負の影響を与える可能性が示唆された。


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