| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-293  (Poster presentation)

ボルネオ熱帯林生態系における針葉樹木部の窒素要求性について

*多賀洋輝, 北山兼弘, 青柳亮太, 辻井悠希(京都大学院農学研究科地域環境科学専攻森林生態学分野)

針葉樹は貧栄養な環境で優占することが広く知られている。が、針葉樹と広葉樹の栄養塩利用特性の違いに着目した研究は少なく、針葉樹の優占メカニズムは未解明な部分が多い。また、栄養塩利用特性に関する研究の多くが葉を対象としており、樹体の大部分を占める木部の特性はあまり研究されていない。しかし、木部への栄養塩投資を下げることにより、より多くのバイオマス(樹高)を達成できるため、木部への栄養投資量は貧栄養環境での競争において、鍵となりうる形質である。そこで本研究は、極めて貧栄養な熱帯林を対象として、木部への栄養投資(辺材の栄養濃度と心材形成の細胞死に伴う細胞外への栄養塩のトランスロケーション)に着目し、針葉樹と広葉樹との違いを明らかにすることを目的とした。

研究は、ボルネオ島 キナバル山の標高1700mに設置された3つの植生プロット(17Q、17S、17U)で行った。17Qは第四紀堆積岩、17Sは第三紀堆積岩、17Uは蛇紋岩を母岩とする土壌で、N、P可給性は17Q>17S>17Uの順になる。17Qで広葉樹3種、17Sと17Uでは広葉樹・針葉樹それぞれ3種を採取対象とした。各種4個体から表層15cmの材コアを採取し、深さごとにN、P濃度を乾燥重量ベースで算出した。また、表層5 cmと5~10 cmの材のN、P濃度の差を算出し、トランスロケーション量の評価指標とした。

最も貧栄養環境である17Uにおいて、針葉樹の辺材(表層0~5 cm)のP濃度は広葉樹より有意に低かった。また、針葉樹のNのトランスロケーション量は広葉樹より有意に大きかった。さらに、個体あたりの樹幹の栄養塩現存量を推定したところ、同じ樹高で、針葉樹のN、P現存量は広葉樹より低い傾向にあった。すなわち、針葉樹木部の低いP濃度と高いNトランスロケーションという特性は、針葉樹の個体あたりの栄養塩量を低くするように作用しており、針葉樹が貧栄養環境で優占するメカニズムを理解する上で重要である可能性が示された。


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