| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-319  (Poster presentation)

メスとオスが翅を食い合う ーリュウキュウクチキゴキブリの配偶行動ー

*大崎遥花, 粕谷英一(九大・理・生物)

親が一定期間子の保護を行う亜社会性は、様々な分類群において独立に進化してきた。中でも両親による子の保護は、脊椎動物では鳥類以外では珍しく、無脊椎動物では極めて稀な中で昆虫ではゴキブリ目で見つかっている。両親による子の保護を行う亜社会性クチキゴキブリの一部の種では、ペアリングの際に配偶個体同士で互いの翅を食い合うことが知られている。両親が子の保護をする種ではペアの相手に損傷を与えると適応度低下に繋がるため不利であると考えられ、このように配偶個体同士が損傷を与え合う他の例は両親による子の保護を行う生物では現在まで知られていない。しかしながら、翅の食い合い行動についての研究はわずかであり、交尾と食い合いの前後関係やメスオスのどちらが先に食うかなど基礎的な情報も不明であった。そこで演者らは翅の食い合いの詳細な情報を得て食い合いとその適応的意義の解明の第一歩とすることを目的として、ビデオカメラで成虫ペアの食い合い行動を撮影した。その結果、食い合い開始から完了までの間に交尾を行う場合があること、食い始める性はオスであることが多いがメスの場合もあること、さらに翅を食われているとき、食われる個体は静止して相手側に体を傾ける場合と体を激しく揺さぶる場合があることが明らかになった。相手側に体を傾ける行動は相手が翅を食うとこを容易にすると考えられるため食われる個体も食い合いに協力していると解釈でき、一方で体を激しく揺さぶる行動は相手が翅を食うことを妨害すると考えられるため食われることを拒否していると解釈できる。翅の食い合い後は子育てに移行するであろうから、翅を食うまたは失うことがその後の両親による子育てに関係していると考えられる。これを踏まえ、翅の食い合いが両親による子の保護の進化へどのように影響しているのか、いくつかの可能性を検討する。


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