| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-320  (Poster presentation)

コウモリの最適採餌戦略の検討 ~マイクロホンアレイを用いた3次元音響動態計測~

*濵井郁弥(同志社大学), 本居和也(同志社大学), 藤岡慧明(同志社大学), 福井大(東京大学), 飛龍志津子(同志社大学)

本研究では,コウモリの採餌飛行戦術を明らかにするために,約20m四方の池の水上を餌場(パッチ)として採餌を行うモモジロコウモリに対し,マイクロホンアレイを用いて超音波と3次元飛行軌跡の計測を行った.コウモリが捕食直前に放射するbuzz音から捕食タイミングや捕食地点を同定し,各個体のパッチ滞在時間や捕食効率,また捕食頻度と飛行軌跡の関係について検討した.

計測を行った6月と9月において,各個体の捕食総数はパッチ滞在時間に比例して増加していた(n=42個体,平均捕食間隔 7.47 ± 4.25 [秒/回]).一方,20秒以上パッチに滞在していた個体(n=36)では,パッチに入った直後と比べて出ていく直前の10秒間の捕食効率は有意に低下していた(Student t-test; P < 0.05).さらに,その直前にパッチから出た個体との捕食効率を比較したところ,計測時刻に関係なく,パッチに入った直後の個体の捕食効率が高かった.以上よりモモジロコウモリは,パッチの質低下ではなく,個体内での捕食効率の低下によってパッチを去る意思決定を行っている可能性が考えられる.

次に捕食頻度と探索飛行経路の関係を調べるために,捕食が低,中,高頻度(6回/128秒, 11回/90秒,12回/45秒)の採餌飛行経路を比較した.結果,中頻度ではパッチ内のある場所を基点として,約10-12 mを往復飛行するforay searchのような飛行パターンが見られた.これは餌の遭遇率を上げるための適応の1つである可能性が考えられる.一方,低頻度の例ではパッチ内を繰り返し周回飛行し,また超音波の放射間隔が約120 msで中頻度(約70 ms),高頻度(約50 ms)と比べて長いことから,探索距離にも違いがあることが分かった.以上のことから,コウモリはパッチ内の餌分布の状況に応じて,探索の戦術を適応的に判断しているのではないかと考えられる.


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