| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-M-350  (Poster presentation)

過採食による下層植生衰退下でシカは何を食べているのか? -DNAバーコーディングで明らかとなった高木種への依存性-

*古田智博(京大院・農), 中濵直之(京大院・農), 鈴木節子(森林総合研究所), 高柳敦(京大院・農), 井鷺裕司(京大院・農)

 近年、ニホンジカの個体数が著しく増加し、過採食による下層植生の衰退が各地で問題となっている。下層植生が衰退した地域ではシカの餌資源となりうる植物が極めて少ないことから、シカ個体群を維持できないと予想される。しかし実際にはシカ個体群が持続的に維持されている地域がある。こうした地域におけるシカの採食生態は明らかにされていない。本研究では、下層植生衰退地域でDNAバーコーディングによるシカの食性解析を行うことで、シカ個体群がどのように維持されているかについて採食生態から解明した。
 京都大学芦生研究林において2015年5月~2016年11月に糞のサンプリングを行った。糞169サンプルからDNAを抽出した。糞中に含まれるDNAから葉緑体trnL p6 loop領域 (約60~80bp) について次世代シーケンサーを用いて塩基配列を決定した。糞中に含まれるDNA配列を、別途作成した芦生研究林内のシカの餌となり得る種子植物のローカルデータベース (233種) と照合することで、採食植物を同定した。
 シカは夏から秋にかけて嗜好性の落葉高木樹 (コナラ属やカエデ属、シデ類、ミズキ等) を多く採食しており、この時期は高木から供給される実生や風などによる落葉落枝に強く依存していると推測された。初冬から春にかけては不嗜好性常緑植物 (オオイワカガミ、イワウチワ、スギ、エゾユズリハ等) を多く採食していた。シカは嗜好性落葉樹が採食できない時期には、不嗜好性常緑植物を補助的に採食していると推測された。以上からシカが嗜好性の落葉高木樹および不嗜好性常緑植物に依存した採食様式をとることで、下層植生衰退地域で餌資源の減少を招くことなく個体数の維持が可能であると考えられる。


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