| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-M-356  (Poster presentation)

流速環境が環境DNA濃度に与える影響の検討:環境DNA分析による生物量推定に向けて

*櫻井翔(龍谷大院・理工), 山中裕樹(龍谷大・理工)

水中に浮遊している水棲生物由来の組織や排泄物を収集し分析することによって、放出源である水棲生物の在不在を判定する環境DNA分析が関心を集めている。流水環境下において環境DNAの動態は未だ解明されていない点が多く、基礎的知見を蓄積することは今後の環境DNA研究にとって急務である。流水環境下では、流量依存的に環境DNA濃度が変化することが知られている。そのため、環境中のDNA濃度を指標にした対象生物の生物量推定を行う上で、流量の変化は生物量の過大評価や過小評価につながる危険性がある。しかし、流量そのものではなく、その変化の履歴が環境DNAに及ぼす影響についてはあまり知られていない。本研究では、実験室で飼育が容易なゼブラフィシュ(Danio rerio)を用いて、流量の変化の履歴が及ぼす環境DNA濃度への影響を評価することを目的とした。かけ流し式の水槽内で15匹のゼブラフィシュを流量0.315ml/min と 20ml/min の異なる流量の環境下で5日間馴致した。その後、異なる2つの処理区を14時間かけて流量2.5ml/minに調整した。流量を2.5ml/minに調整した直後の時間を0時間とし、0,3,6,11.2時間後に水を採取し、エタノール沈殿法を用いてDNAを回収した。リアルタイムPCRを用いてDNA濃度を定量し、流量の変化の履歴によって環境DNA濃度に与える影響が異なるかについて評価するために一般化線形モデル(GLM)を用いて比較および検討を行った。結果、異なる2つの処理区では環境DNA濃度に与える影響が異なることが示された。このことは、仮に流量が同じような状況時の採水においても、その採水時点までの流量の変化履歴が、全く異なったDNA濃度測定結果をもたらしてしまうかもしれないことを示唆している。流水環境下において環境DNA濃度を流量の変化の履歴に着目して補正することは、環境DNA濃度を用いた対象生物の生物量推定の向上に繋がると期待できる。


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