| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-M-367  (Poster presentation)

最後に残るのは人かカキノキか? - 集落景観のこれまでとこれから -

*冨森加耶子, 永松大(鳥取大・院・地域)

カキノキは有用植物として古くから栽培されてきたが,各地で在来品種の消滅が進んでいる。在来品種は遺伝資源だけでなく,地域の歴史や文化を反映する景観要素であり,その保全が急がれる。その保全にあたり,カキノキ在来品種がもつ多様な機能を評価することが必要である。しかし,カキノキを時空間的視点で捉え,景観要素として評価した研究は少ない。本研究は,江戸時代より鳥取県東部のみで栽培されてきた「新平柿」を対象とし,景観要素としての機能の変化について明らかにした。
調査は新平柿の古木が多く残存するとされる鳥取市上砂見地区で行った。現在の個体数や生育地の土地利用について踏査により把握し,各個体の樹高,胸高直径を測定した。個体のサイズと樹齢との関係を検討するため,年輪解析を行った。アンケート調査やヒアリングにより利用や管理法の変化など,新平柿に関連する人間活動の変遷についてまとめた。
新平柿は327個体が確認された。かつての新平柿は,田畑の余地に植栽され,家族全員で栽培管理を行っていた。1970年代以降に植栽された個体は,管理しやすいように樹高5m以下に切り下げ剪定されていた。しかし,人口減少により耕作放棄地が増加したため,新平柿は管理されなくなった。現在は森林や放棄地などの利用されていない土地に,管理が困難な5m以上の個体が多くみられた。新平柿は剪定方法の変化により樹高が異なるなど,植栽された時代を反映していることが明らかになり,これが集落の景観を特徴づける機能を果たしていると考えられた。しかし,10-30代の若い住民の中には,新平柿自体を知らない人もみられるなど,新平柿と住民との関係性が希薄になりつつある。このため,これまでの景観要素としての機能をもつ新平柿は消滅する危機にあることが示唆された。


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