| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-M-374  (Poster presentation)

渓流における環境DNAを利用したタゴガエルの好適繁殖地の解明と個体数推定

*小林暉(東京農工大学地域生態システム), 岩井紀子(東京農工大学地域生態システム), 井川武(広島大学大学院国際協力研究), 高原輝彦(島根大学生物資源)

環境DNA分析は、直接生体を目にすること無く生物を探索できる方法として注目されており、近年、個体数推定への適用可能性も示唆されている。しかし、流水環境における検出力についての理解は乏しく、個体数推定では、バイオマス当たりの環境DNAの脱落速度の変化は考慮されてこなかった。本研究では、流水環境における生物探索と個体数推定における環境DNAの有用性を、渓流に生息するタゴガエルを対象として検討するとともに、探索結果を応用して好適繁殖地の解明を行った。野外調査により、従来の探索法(踏査およびレコーダー)による探索結果と、環境DNA分析による判定を比較したところ、従来の探索法によって在と判断した1次谷のうち21.3%で環境DNAは非検出であった。野外渓流へカエル幼生を導入する実験では、導入地点の40 m下流まで環境DNAは検出されたが、導入個体数が少ない場合は上流に非検出地点があった。また、環境DNA濃度は距離に従って減衰せず、導入したバイオマスとも相関しなかった。探索結果を元に好適繁殖地の解析を行ったところ、タゴガエルは流れの緩やかな環境を繁殖地としていた。室内実験では、バイオマスと環境DNA濃度は相関を示したが、個体の環境DNA脱落速度は発育段階によって変化し、前後肢のない個体より、ある個体の方が、バイオマス当たりの環境DNA脱落速度が速かった。流水環境において、環境DNAを用いた検出は完全ではないため、環境DNAが流水中を均等に拡散していない可能性を考慮し、採水方法を工夫する必要があると考えられた。また、個体数推定においては、対象となる生体の発育段階を考慮する必要が示された。


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