| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-R-461  (Poster presentation)

葉の栄養塩再吸収時間の推定モデルの開発

*竹原巧, 小野田雄介, 北山兼弘(京大・農・森林生態)

窒素やリンは様々な生態系において植物の生産を律速している。そのため植物はこれらの栄養塩を効率的に利用する様々な戦略をもつ。その一つとして、落葉前に葉の栄養塩を植物体内に引き戻すことで栄養塩の損失を減らす、栄養塩の再吸収がある。再吸収効率(生葉栄養塩における再吸収される割合)は種や生育条件によって大きく異なる(e.g.約20~70%)。再吸収効率は、再吸収速度と再吸収時間(葉の老化に伴い葉内で栄養塩の再吸収が始まった時から葉が脱落するまでの時間)の積に依存すると考えられる。そのため両者を定量化することが、再吸収効率を理解する上で重要である。しかし再吸収速度と再吸収時間を評価するためには継続的な測定が必要であり、容易ではない。そこで本研究では、再吸収速度と再吸収時間を、2回の調査により推定する手法を開発した。具体的には、ある種の様々な老化段階にある葉の色素量(SPAD値)を、数日の期間を開け、非破壊的に2度計測し、各葉の老化速度から微分方程式によりその種の葉の老化パターンを再構築する。これにより、短期間で、色素量の変化速度と再吸収時間を推定することが可能である。この方法の妥当性を検証するために、コナラを用いて、微分方程式による再吸収時間と実測した葉の老化時間を比較した。また、SPAD値の変化速度と有機態リン分解酵素量の関係を検証した。その結果、微分方程式による再吸収時間は実際の葉の老化時間をよく再現していた。さらに、再吸収速度の個葉間差を理解するために、老化葉を分解する酵素活性が重要であると考え、有機態リン分解酵素活性とSPAD値の減少速度を比較した結果、両者の間には正の相関があった。これらの結果から、本研究で開発した手法によって、葉の再吸収速度と再吸収時間の推定が可能であり、栄養塩再吸収効率の変異のメカニズムを明らかにできると考えられる。


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