| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-C-098  (Poster presentation)

表現型可塑性のコストを推定する新しい統計学的手法

*道前洋史(北里大学), 江村剛志(National Central University), 松波雅俊(琉球大学), 西村欣也(北海道大学)

適応的な表現型可塑性の進化を語る上でコストの議論は避けられない。適応的な可塑性が常に進化するわけではないという事実が、逆説的にその進化を抑制している何かが存在すること示している。なかでも可塑性のコストは大きな要因であるが、実証研究ではコストの検出にほとんど成功していない。我々はその主要な原因がコストを推定する統計学的方法にあると考えている。
可塑性のコストは線形回帰で推定される。ある遺伝子型の基準環境における適応度をY、基準表現型値と可塑性による形質発現量の2つをX1とX2として、複数の遺伝子型グループに対する線形回帰(最小二乗推定量:OLS推定量)により可塑性の発現量(X2)に関する回帰係数を推定し、それが負であれば可塑性は適応度に対するコストと判断される。しかし説明変数間の相関(多重共線性)や外れ値が存在する場合、OLS推定量による推定値の信頼性は著しく低下する。一般的に表現型値とその可塑性の発現量は相関があり、また生物を対象としたデータは外れ値を含むことが多いため、OLS推定量による可塑性のコストの推定には問題がある。
多重共線性に対してリッジ回帰では、正則化項を設けることで推定量を縮小させ回帰係数を推定する。また外れ値に対してロバスト回帰では、各データ点に損失関数を用いて、残差の大きさに基づいた重み付け最小二乗法で回帰係数を推定する。我々は、多重共線性と外れ値を同時に考慮したロバスト・リッジ(RL)推定量のOLS推定量に対する優位性を検討したのち、可塑性コストの推定に応用した。
シミュレーションの結果、RL推定量はOLS推定量より優れた性能を示した。また実データの解析の結果、RL推定量では可塑性のコストもベネフィットも検出できなかった。可塑性はその進化の過程でコストの大きい可塑性を淘汰し適応してきたのか、それとも中立進化してきたのか、我々の結果は新たな議題を提供している。


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