| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-C-112  (Poster presentation)

ツダナナフシの体色と隠蔽効果

*梶原悠(琉球大学), 小林峻(琉球大学), 持田浩二(慶應義塾大学), 藤本慎吾(琉球大学), 伊澤雅子(琉球大学)

ナナフシ科に属するツダナナフシは台湾および先島諸島の一部に分布する夜行性の昆虫であり、成虫の体長は10cmを超える。タコノキ科のアダンの葉を主に採餌し、日中はアダンの葉の隙間で休むため、本種が示す緑色の体色はアダンの葉上において捕食者に対する隠蔽効果があると考えた。本研究ではツダナナフシの捕食者と考えられる動物のうち、視覚が最も発達した分類群である鳥類が、アダンの葉とツダナナフシの体色を識別出来るか確かめることを主たる目的とした。また、予備観察からツダナナフシの野生個体は室内環境に馴化すると、体色が暗色化して緑色が弱まることが分かっていた。そこで、暗色化した個体は鳥類に対する隠蔽効果が失われているかを確認した。さらに、体色の可塑性について検討するため、暗色化した個体が再び緑色に戻るか飼育実験を行った。ツダナナフシ成虫の腹部第5節、中胸背板、後翅、及び背景色となるアダンの葉について、分光反射率を計測した上で、昼行性の鳥類で一般的に知られる2種類の色覚タイプのモデルを用いて鳥類による識別の可否を判断した。加えて、実験室で累代飼育されていた暗色化個体を屋外で飼育することで体色の可塑性について検討した。分光計測の結果、野外個体は腹部第5節及び中胸背板は、いずれの色覚タイプを持つ鳥類に対して隠蔽効果があったが、後翅ではその効果が見られなかった。一方、暗色化した個体はいずれの色覚タイプの鳥類に対しても、隠蔽効果が失われた。また累代飼育で暗色化した個体を屋外で飼育したところ、体色が緑色に戻る傾向を示し、体色を可塑的に調節できることが示唆された。緑色に戻った暗色化個体はいずれの色覚タイプの鳥類に対しても隠蔽効果が高まる傾向があった。以上の結果から、ツダナナフシは体色のほとんどを背景のアダンの色と同化させ、鳥類のような視覚を用いて探索する捕食者に対して隠蔽型擬態を行っていると考えられる。


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