| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-C-133  (Poster presentation)

静岡県内におけるアユ寄生メタゴニムス属吸虫Metagonimus spp.の長期変動

*浦部美佐子(滋賀県立大学環境科学部), 記野秀人((元)浜松医科大学感染症学講座)

複雑な生活環を有する寄生虫では,その密度に影響する生物学的・非生物学的パラメーターは多数に昇る。しかし、大局的に見れば,気温・水位などの環境要因の変動と関連性を示す例がいくつか報告されている(Yurlova et al. 2006; Urabe et al. 2009; Doi and Yurlova 2011)。静岡県予防医学協会によって1993〜2015年に収集された、静岡県内の11カ所の河川で採捕されたアユ寄生Metagonimus属吸虫メタセルカリアの感染量データを用いて,環境要因(水位および気温または水温)との関連を調査した。Metagonimusは水温20〜26℃の時にセルカリアを盛んに遊出するため(影井、1966)、夏期に水温が高く、かつ水量の少ない年にメタセルカリア密度が高くなると予測した。
調査期間を概観すると、大部分の河川でメタセルカリアの密度は近年減少している。そこでメタセルカリア密度の高い年代に限って分析すると、11河川中2河川(狩野川・大千瀬川)で、夏期(6〜8月)に水温が20℃を超えるか、または気温が25℃を超える日が多い年に感染量が多い傾向を示した。この傾向は、感染量が減少した調査期後期においては失われた。また、夏期の河川水位と感染量の間には明瞭な関連は見られなかった。しかし、洪水頻度の高い狩野川では、前年の8〜10月に出水があると、翌年の感染率が顕著に低下することがわかった。この理由として、秋の出水により産卵期のアユ個体群が減少し,終宿主による親アユの捕食頻度が下がるため、翌年の寄生虫密度が低下している可能性が考えられた。以上のことから、河川におけるMetagonimusの密度は,セルカリア遊出時の水温や水量よりも、第二中間宿主であるアユの密度に大きく影響を受けている可能性が示唆された。


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