| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-D-134  (Poster presentation)

相関は因果を反映するか? 水温とイワシ類2種の関係を例として

*中山新一朗, 高須賀明典, 市野川桃子, 岡村寛(中央水産研究所)

日本近海のマイワシとカタクチイワシは、その生物量が数十年周期で激しく変動することで知られている。これら2種の個体群動態は水温の変動に起因していると考えられているが、具体的にどの季節の、どの海域の水温が影響しているのかはこれまで明らかになっていなかった。一方で、マイワシの個体群動態と黒潮続流域の冬季海水温の間には強い負の相関が観察されている。相関関係は一般的には因果関係を意味しないが、相関の有無と因果の有無が対応しているケースも多い。水温がこれら2種の個体群動態に影響している海域と季節を特定し、水温と個体群動態の相関が因果関係と対応しているのかどうかを確かめることは生態学的に興味深い課題である。我々は季節ごと、海域ごとの海水温およびマイワシ・カタクチイワシの個体群動態の時系列に因果関係推定法(convergent cross mapping)を適用し、海水温が2種の個体群動態に影響を及ぼしている季節・海域を特定した。また、各海水温時系列と2種の個体群動態の相関を計算し、相関関係と因果関係が対応しているかどうかを確かめた。因果関係は概ね2種の産卵・回遊の経路に沿った海域で検出された。因果関係が検出された海域と相関が検出された海域は一部重なっていたが、因果はあるが相関はない/相関はあるが因果はない海域も多く見られた。このことから、2種の個体群動態のメカニズムを知るためには水温との相関を観察するだけでは不十分である可能性が示された。


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