| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-G-240  (Poster presentation)

雑種タンポポの環境適応:生育環境の異なる雑種クローンの成長特性

*伊東明(大阪市大・理), 渡中実里(大阪市大・理), 水貝翔太(大阪市大・理), 名波哲(大阪市大・理), 松山周平(酪農学園大・農食環境)

 無性的に増える外来植物が、移入先の新しい環境にどうやって適応して定着し、分布を拡大しているのかを明らかにすることは、移入種の分布拡大メカニズムの理解に役立つ。日本では、セイヨウタンポポと在来タンポポの雑種が広く分布していることが知られている。雑種タンポポは無融合生殖で無性的に繁殖するが、その定着、拡大過程についてはほとんど分かっていない。そこで、大阪周辺に生育する雑種タンポポについて遺伝子解析と栽培実験を行い、雑種タンポポの成長特性が生育環境とどのような関係にあるかを調べ、雑種タンポポが新しい環境に定着し、分布を広げる過程について推測した。まず、大阪周辺で在来タンポポも生育する「古い草地」5箇所と在来タンポポが生育しない「新しい草地」5箇所を選び、雑種タンポポの果実を採取してマイクロサテライト(SSR)9遺伝子座の遺伝解析を行った。その結果、1) 雑種タンポポのクローン多様性が高いこと、2) 古い草地と新しい草地の間に遺伝的な分化があること、3) 広く分布する主要なクローンが6つ存在すること、が分かった。次に、この主要6クローンの種子を使って、インキュベータによる栽培実験を行った。その結果、古い草地に多かった2クローンと新しい草地に多かった4クローンの間には成長特性に違いが認められた。新しい草地のクローンは、開花開始が早く、花重量が大きいなどの特徴があり、より開けた撹乱の多い環境に適していると考えられた。一方、古い草地のクローンは、開花よりも繁殖成長により多く投資する傾向があり、他の植物との競争が必要な安定した環境により適していると考えられた。以上の結果は、大阪周辺では、頻繁な交雑でできた遺伝的に多様な雑種個体から、それぞれの環境に適した個体が生き残り、無融合生殖でクローンを増やすことにより、新しい環境に急速に定着、拡大してきたことを推測させる。


日本生態学会