| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-H-268  (Poster presentation)

硝酸安定同位体比による森林施業が冷温帯森林集水域の窒素循環に与える影響評価

*矢野翠(京都大学, 東京農工大学), 眞壁明子(海洋研究開発機構), 福澤加里部(北海道大学), 柴田英昭(北海道大学), 佐藤冬樹(北海道大学), 野口泉(北海道立総合研究機構), 山口高志(北海道立総合研究機構), 吉田未来(東京農工大学), 鈴木希実(東京農工大学), 内藤梨沙(東京農工大学), 木庭啓介(京都大学, 東京農工大学)

森林施業による人為的攪乱が森林生態系の窒素循環に与える影響を評価するためには集水域の物質収支を把握する必要があるが、窒素代謝に関連する微生物過程が複雑であるため、濃度情報のみから内部循環を把握することは困難である。近年、流出する窒素形態として重要なNO3-の三酸素同位体比により、大気沈着由来と硝化由来の二つの起源を区別することが可能となった。本研究では大気沈着、土壌、渓流水中のNO3-濃度および窒素酸素安定同位体比から、森林施業による内部循環の変化を定量的に評価することを目的とした。北海道大学雨龍研究林泥川流域を対象として、皆伐区、掻き起こし区、表土戻し区を設けて未施業の対照区(森林区)と比較した。伐採前後の時期において対照区の比流量および年間のNO3-流出量に明瞭な変化は見られなかった一方で、皆伐区および表土戻し区においては伐採8年後(2014-2015年)の年間のNO3-流出量はそれぞれ伐採前の1.5倍および4.9倍に増加した。また、掻き起こし処理8年後の年間のNO3-流出量は処理直後の4.1倍であった。伐採8年後の年間のNO3-流出量に占める硝化由来NO3-の割合は、対照区、皆伐区、表土戻し区および掻き起こし区においてそれぞれ84%、79%、94%および89%であった。よって、皆伐処理が流出NO3-量と硝化速度に与える影響は比較的小さいのに対して、林床のササの根の掻き起こしや表土戻し処理が与える影響は大きく、有機物分解による窒素無機化や硝化によるNO3-の生成を促進し、生物に利用されなかった余剰のNO3-が流出したと考えられた。また、定常状態を仮定して集水域のNO3-の流入、流出速度およびそれらのNO3-の窒素酸素安定同位体比から見積もった総硝化速度は対照区と皆伐区においてそれぞれ20.7および15.0 kg N ha-1 yr-1、脱窒速度は12.7および10.2 kg N ha-1 yr-1であり、北方林においても脱窒が窒素除去過程として重要であることが示唆された。


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