| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-M-375  (Poster presentation)

コウヤマキの天然更新における種子と実生の消失に関与する菌害

*市原優(森林総研関西), 大原偉樹(森林総研関西), 升屋勇人(森林総研東北)

 コウヤマキは日本固有の温帯性針葉樹であり、紀伊半島や木曽地方、中国地方に主に分布している。しかし、コウヤマキ林は局所的に分布していることが多く、天然更新によるコウヤマキ林の保全のためには更新阻害要因を解明する必要がある。針葉樹の天然更新においては、林床に落下した種子の地中腐敗や実生消失が問題となっているが、コウヤマキでは未解明である。本研究ではコウヤマキ天然更新初期における阻害要因を明らかにするため、菌害による種子腐敗と実生立枯れについてこれまで調査した結果をまとめて紹介する。
 和歌山県高野町のコウヤマキが優占するコウヤマキ・ヒノキ林で調査を行った。林床の5地点でリター層(LF層、30×30㎝)を採取し、それぞれから自然落下したコウヤマキとヒノキの種子を採取し、菌害種子を選別した。コウヤマキとヒノキの種子の菌害率はそれぞれ80.1%および93.8%であり、菌害種子からは病原菌と思われる糸状菌2種が高頻度で分離された。同林で立枯症状のコウヤマキ実生を採取し、軸から菌の分離を行った結果、Pezicula sp.、Phomopsis sp.およびCylindrocarpon sp.が主に分離された。これらの糸状菌を用いてコウヤマキ実生の軸に付傷接種したところ、前者2菌で接種部に壊死を起こし枯死させる病原性が確認された。このことから、種子腐敗と実生立枯れを起こす病原菌がコウヤマキ林床における更新阻害の一要因になっていると考えられた。今後、林内における種子腐敗と実生立枯れの発生生態や、病害発生を抑制する環境要因を明らかにし、コウヤマキ林の更新に与える影響を明らかにする必要がある。


日本生態学会