| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-N-396  (Poster presentation)

水俣湾に生息する魚類の餌選好性による水銀同位体比変動

*武内章記(国立環境研究所), 森敬介(国立水俣病総合研究センター)

近年、水銀は地球環境汚染物質として研究および対策が進められている。特に、水環境は水俣病の原因となったメチル水銀が存在しており、水生生物へのメチル水銀の移行過程に関する知見を蓄積する必要がある。そこで本研究では、水俣湾に生息する異なる餌の選好性を示す魚類中の筋肉と底質表層の水銀同位体比を計測して、生物移行プロセスの詳細な把握を図った。魚試料は、胃内容物の調査から餌の選好性を岩場、砂泥、浮遊物に分類した。そして、各試料中の水銀同位体比を多重検出器型ICP質量分析装置で計測した。水俣湾の底質表層のd202Hgは約–0.8‰であった。そして砂泥に生息する生物を好んで食べる魚類(砂泥魚)中のd202Hgは約–0.6‰で、D199Hgが約0.1‰であった。その一方、岩場に生息する生物に高い餌選好性を示す魚類(岩場魚)中のd202Hgは約0.0‰で、D199Hgが約0.4‰と、砂泥魚よりも水銀同位体比が高かった。砂泥魚中のd202Hg値は底質のd202Hg値と類似する傾向にあり、底質で生成されたメチル水銀が直接生物移行していると考えられる。その一方、岩場魚中のd202Hg値は、底質のd202Hg値より高くなっている。さらにD199Hg値が正値を示すことから、光脱メチル化反応をしたメチル水銀が蓄積しており、底質で生成されたメチル水銀は、生物へ移行する前に水塊で一部脱メチル化した事を示している。継続して底質や生物のデータを蓄積しており、環境試料の水銀同位体比によって、水俣湾における底質から生物圏への複雑なメチル水銀の移行が明らかになりつつある。


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