| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-N-410  (Poster presentation)

琵琶湖深水層における生物地球化学プロセス

*高巣裕之(長崎大学/水産・環境科学総合研究科), 中野伸一(京都大学/生態学研究センター)

 地球温暖化の影響により、世界各地の湖沼・海洋において、魚類や底生生物の生息が困難なほど酸素濃度が著しく低下した水塊である「貧酸素水塊(デッドゾーン)」の分布が急速に拡大しており、水圏生態系の劣化が問題となっている。近年、琵琶湖の深水層においても、貧酸素水塊の発生頻度や規模の拡大が懸念されている。深水層に供給された溶存酸素は、主に細菌の有機物分解に伴う呼吸によって消費される。細菌による有機物分解と呼吸は共役して起こるため、深水層の細菌による有機物分解は、貧酸素水塊形成を支配する主要因となる。そのため、供給される有機物の量や細菌群集にとっての利用のし易さ(生物利用性)は、細菌群集の呼吸速度の支配要因として重要である。本研究では、深水層へ供給される有機物の生物利用性を明らかにすることを目的とした。
 2016年6月〜8月に、琵琶湖北湖定点(水深約73 m)の深水層の調査を行った。深水層に供給される有機物の生物利用性を明らかにするため、底層70 m から採取した水を酸素瓶に分注し、暗所・現場水温で培養したときの溶存態有機物の質的・量的な評価と、酸素消費速度を求めた。また、有機物の質的な評価には、アミノ酸組成をもとに、有機物の新鮮さを表す指標である続成指標を算出した。
 溶存態有機物のアミノ酸組成から、続成指標を算出したところ、培養開始時は、いずれも0.93~1.05の範囲であった。この値は、植物プランクトン由来有機物に近く、底層の有機物は、比較的新鮮な状態であることが示唆された。培養後は、続成指標が0.43〜0.79まで低下した (数値が小さいほど分解が進んでいることを意味)。また、培養期間中に有機炭素の最大8%が分解された。このことから、底層では、細菌群集による有機物の分解の進行と同時に、連続的に易分解性の新鮮な溶存態有機物の供給があることが示唆された。


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