| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-N-412  (Poster presentation)

土壌食物網構造を用いた異なる土壌管理下での窒素無機化能の推定

*井上浩輔(横浜国立大学)

持続的な農業を実現するために省耕起や不耕起、土壌表面の被覆、輪作などからなる保全型農業の関心が高まっている。植物は必須元素の窒素を根から主に無機態の形で吸収する。耕起を行う慣行農業下では、無機態窒素の過剰施肥により様々な問題が生じる。一方、保全型農業下では多くの土壌生物が生息できるため、土壌動物・微生物を介した有機態窒素の無機化が植物の成長を促進しうる。作物生産における土壌生物の利用可能性を探るため、土壌食物網による無機化について研究する必要がある。本研究は、保全型農業における土壌食物網による窒素無機化能を推定し、そのメカニズムを解明することを目的とする。調査は福島県会津地方、二本松地方における有機栽培圃場と隣接する休閑地 (n=5)、横浜国立大学実験圃場(YNU)の耕起と施肥の有無の2要因4水準で管理された圃場 (n=4)で行った。それぞれの調査地で大型土壌動物、中型土壌動物、土壌、リターを採取し、得られた土壌から全炭素、全窒素を測定し、土壌から抽出したリン脂質脂肪酸を用いて土壌微生物バイオマス量を推定した。これらのデータを用いて、Hunt et al (1987)のモデルに基づき土壌食物網構造による窒素無機化量を推定した。その結果、耕起管理下で窒素無機化量が低くなる傾向があった。YNUにおいては、不耕起区で窒素無機化量が有意に高く (p < 0.0001)、1年間で10 g/m2 程度の無機態窒素が供給されていたのに対し、耕起区では2 g/m2程度であった。また調査地を通して窒素無機化量と菌類バイオマスとの間に有意な相関が認められた。そして大型土壌動物バイオマスの増加に伴い菌類バイオマスは増加しており、大型土壌動物バイオマスは耕起の影響を強く受けていた。森林土壌では1年間で10 g/m2の無機態窒素が植物に吸収されていると言われていることから、不耕起の保全型管理下でも十分な量の無機態窒素が土壌食物網を通して植物に供給されることが示唆された。


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