| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-425  (Poster presentation)

日本産カエデ属における地形的ニッチと形質の進化

*近藤菜々美, 酒井暁子(横国大・環境情報)

起伏のある地形は生息環境に空間的多様性をもたらす。本研究では、同一地域内に分布するカエデ属:チドリノキ(節)、アサノハカエデ(節)、イタヤカエデ節(ウラゲエンコウカエデ)、ウリハダカエデ節(ウリハダカエデ、ホソエカエデ、コミネカエデ)、イロハモミジ節(ヒナウチワカエデ、コハウチワカエデ、オオモミジ、ハウチワカエデ)を対象に、生息地の選好性(地形的ニッチ)と形質の関係、およびそれらの進化的関係を調べた。

地形的ニッチについて、樹種ごとに分布する場所の地形関連変数(標高、ラプラシアン(尾根-谷指数)、斜面傾斜度、斜面方位、土壌深、地表硬度、岩石被度)を調べ、各中央値およびそれらによる主成分座標値の系統的保存性をPagel’sλで評価した。その結果、大・小スケールでのラプラシアン、岩石被度、斜面の東西方位、地表硬度のそれぞれが系統的に保存され、全体的な分布傾向を説明するPC第1軸(44%)も系統的保存の傾向が見られた。つまり近縁種ほど生息環境が似ることが示された。PC2軸(25%)とPC3軸(16%)は系統関係とは無関係であった。

同様に、形質指標(葉・花・種子・冬芽に関するサイズや数などの形質値および樹幹の傾き)に関しては、葉身長、葉の裂片数、花弁数、雄蕊数、芽鱗数、幹傾斜度のそれぞれ、および主成分第1軸(35%)と2軸(25%)が系統的に保存されていた。

分布に関するPC1軸の座標値を説明変数に、形質に関するPC1軸の座標値を目的変数とすると、単回帰でもPGLM(系統距離を考慮した回帰)でも有意となり、地形的ニッチの変化と形質の進化がリンクしていると言えた。古くに分化した種は谷の崩積斜面(急斜面で岩石が目立ち地表が柔らかい)に分布して、葉の裂片数と花弁数が少なく、種子が大きく、傾いた樹幹を持つ傾向にあり、後から分化したクレードでは谷から離れた安定斜面に分布して、前者と対照的な性質を示す傾向にあった。


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