| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-27  (Poster presentation)

日本産サケ科魚類イワナSalvelinus leucomaenisの背部白色斑紋のサイズと生息環境との関係

*中村彰甫, 二村啓太(成蹊高等学校)

サケ科魚類イワナSalvelinus leucomaenisは本州では渓流の冷水域に生息し環境指標,資源,産業経済面でも重要魚種となっている.本種は体表白斑紋の分布とサイズ等から北海道から東北に主に分布するアメマス,本州に広く分布するニッコウイワナ, 本州中部太平洋岸河川,紀伊半島に分布するヤマトイワナ,西中国地方のみに自然分布するゴギの4亜種に分類される.しかしmtDNAのcyt-b領域後半部557bpからの分子系統からみた遺伝子的な地理的分布と4亜種の分布はほとんど一致しないとされるため,斑紋の特徴は生息場所のなんらかの環境要因の影響の等の可能性が推察される.そこで入手可能な物理,化学的生息場所環境と背部白斑紋との関係を比較することで白斑紋の変異要因を推定することを目的とした.調査期間は2012年8月から2016年9月で,生物部合宿等において北海道から中国地方の26河川より4亜種個体を全て釣獲により採捕し試料とした.うち78個体の各体部長,背部白斑紋の直径等を計測しKawai et.al,(2000)の斑紋指数を参考に白斑紋の大きさの指標を算出し緯度経度,水温,標高,流程長等と比較した.また,白斑紋模様の個体模型を作製し海砂上と渓流の珪藻の付着した河床石上に置き見え方を比較した.mtDNA全周塩基配列分析を成蹊大久富研究室に依頼し分子系統樹を作成した.その結果,白斑紋サイズと分子系統には強い傾向は認められなかった.一方高標高地点または河口から遠方の個体ほど体サイズあたりの白班紋が小型化するか消失する傾向が認められた.白斑紋個体模型は海砂上では目立たず,渓流河床石上で目立った.本種に最も近い体色模様の魚種にクサフグ等フグ科6種/約3360種がおり,全て沿岸域の砂泥底を中心に生活し逃避時に砂泥底へ潜る.背部白斑は上方からの保護色と予想されるため,本種においても捕食圧による淘汰によりその生活場所の保護色に近いものに適応してきた可能性が示唆された.


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