| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-37  (Poster presentation)

ガマやショウブに集まるアブラムシの正体とその行動に迫る

*井川恭平, 上野裕之(佼成学園高等学校)

本校の池に生育するガマ(Typha latifolia)には大量のアブラムシが定着するのに対し,同じ池でガマと混生しているキショウブ(Iris pseudacorus)の葉には全く定着していないという現象に注目し、これが葉に含まれる成分に因るという仮説のもと研究を始めた。まず,金属トレイの両端に,茹でるなどの条件を変えたガマの葉とキショウブの葉の切片を,中央にアブラムシを置いて,葉の選択を調べるという行動実験を実施した。その結果,キショウブの葉に水溶性の定着阻害性の成分が,ガマの葉やキショウブの葉に誘引性の成分が含まれていることなどが明らかになった。
一方,本校のアブラムシと外見が酷似した,石神井公園のショウブ(Acorus calamus)の葉に定着するアブラムシを発見した。このアブラムシについて前述の行動実験を行なったところ,本校のアブラムシと同様にキショウブを避けることが確認された。さらに,本校のアブラムシと石神井公園のアブラムシについて,それぞれガマの葉とショウブの葉のどちらを選択するかを調べたところ,前者はガマの葉を,後者はショウブの葉を優先的に選択していることが明らかになった。
次に,このように葉の嗜好性の異なる本校と石神井公園のアブラムシについて,標本作成による形態観察と,ミトコンドリアDNAの遺伝子解析による種の同定を試みた。すると,形態観察では二者は異なる形態を示しており,形態的に前者が「ガマノハアブラムシ(Schizaphis scirpi)」,後者が「ショウブアブラムシ(Schizaphis acori)」と考えられる特徴を有していた。しかし一方で,遺伝子解析の結果,両者のミトコンドリアDNAの塩基配列は100%一致するという結果が得られた。以上より,餌の嗜好性や形態が異なり,これまで別種として扱われていたアブラムシが,同種である可能性が生まれてきた。


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